これがわたしの幸福論

□その3。
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あの世には、この世にはない動植物もあるそうです。



そう…金魚草もそのひとつだそうです。





ビチビチと元気良く動く家族の姿を鬼灯様と一緒に眺めながらわたしは元気よくおぎゃあとないた。


するとわたしの声に家族のみなさんはおぎゃあおぎゃあと挨拶を返してくれる。



やっぱりここは落ち着きます。としゃがみ込んだ鬼灯様の背中に抱きつきながらにこりと笑うけれど、鬼灯様は無反応。


どうしたのでしょう?と鬼灯様のお顔を覗き込むと鬼灯様は金魚草をじーっと見つめながら何かを考えられているご様子。

…このままくっついていたらお邪魔になってしまいますかね?と思い鬼灯様の背中から離れようとしたその時でした。



「肥料を変えるべきか…エサを変えるべきか…それが問題だ。」




そう呟いた鬼灯様はため息をついてから紅はどう思います?とわたしにも問いかけてきた。



「……おぎゃあ…。」



わたしはお世話していただいていた側の金魚草なのでよくわかりませんが…今鬼灯様が金魚草にあげているごはんより前のごはんの方がわたしは好きでした。という事を伝えたいけれどそんな高度な言葉はまだ話せません。



お役に立てなくてごめんなさい、と鬼灯様の背中に顔を擦り付けていると鬼灯様が少しだけ笑ったような気がした。




「今日の紅は甘えん坊さんですね。さて、金魚草に水をあげなければ…」


「おぎゃ!」


「お手伝いしてくれるんですか?助かります。では紅はこの肥料を地面に蒔いてください。」


「はい!」



鬼灯様がお水をあげる準備を始めたのでわたしは近くにおいてあったバケツの中の肥料を金魚草畑にぱらぱらと撒きはじめた。



「紅、今から水を撒きますから濡れないように気をつけてくださいね?」


「はい!」




鬼灯様が金魚草にお水をかけ始めるとみなさんとっても嬉しそうにピチピチと動いて、わたしも少しだけ混ざりたい衝動に駆られましたがここは我慢です。とぐっと拳を握りしめてからまた肥料を撒きはじめようとした時、獄卒さんが廊下を歩いているのを見つけてこんにちは!という意味を込めてわたしはおぎゃ!とないた。




「あ、紅さんこんにちは。お手伝いですか?えらいですね……おー凄い、いっぱい増えましたねぇ…鬼灯様が品種改良なさった金魚草。」


「おぎゃ!」



はい!たくさんいますよ!と獄卒さんに笑いかけた時、鬼灯様が獄卒さんに気付いたようで獄卒さんの方へと振り返った。



「今じゃ愛好家も多くて……大きさを競う大会もあるんでしょう?僕のイトコも没頭しすぎて嫁さんに怒られてますよ〜。」


「……何せ忙しくて旅行に行く予定も立てられない身ですので…つい趣味にのめり込んでしまいますね。」





そうですね、鬼灯様…お忙しいですもんね…わたし、もっとお手伝い出来るように頑張りますね!という意味を込めておぎゃあ!となくと鬼灯様も獄卒さんも頬を緩めてくれました。そして去っていく獄卒さんの背中に手を振っていると鬼灯様がさて、と水道の蛇口を止めてわたしを呼びました。





「そろそろですね。紅、ご飯の時間です。食堂へ行きましょうか。」


「ごはん!!」


「紅は何が食べたいですか?」


「ぺーとー!」


「金平糖はお菓子ですからまたあとで。ご飯が先です。」


「はいっ!」




鬼灯様はわたしを抱き抱えながら長い廊下を歩いていく。



人の姿になって、たくさんの食べ物があることを知ったわたしは金魚草以外の食べ物を少しずつですがお試しで食べています。



鬼灯様はわたしに金魚草が食べられている様子を見せたくないらしいですが別に気にしていません。




食物連鎖というやつです。

仕方のないことですし、何より、今まで育てていただいたお礼が出来ます。ただ枯れていくよりはその方がいいです。もちろん、金魚草の中にはそれが嫌だという方もいらっしゃいますがわたしは育てていただいたお礼をしたかった金魚草でしたので…。でもまぁ…やっぱり長生きはしたいですよね。




ちなみに、金魚草であった時のわたしは金魚草がお薬になれると知ってから最後はお薬になって、鬼灯様のお役に立ちたいと思ってました。

お薬になる金魚草って枯れてからお薬になるのですし、苦しまず、そしてお役に立てるなんて素敵なことだと思います。




今となっては叶わぬ夢ですが…と物思いに耽っているといつの間にか食堂に着いていて、鬼灯様は適当に料理を注文し始めていました。




注文が終わり、鬼灯様はわたしを地面に降ろしてから料理を受け取るとテレビが置いてある前の席について、テーブルに料理を置きました。



わたしも鬼灯様のお隣に座って目の前に置かれたごはんを見てから、ほーずき!と声を掛けた。




「あぁ、これはオムライスです。オムライスに刺さっている小さな旗は食堂の方が紅の為に用意してくださったみたいです。あと、ゼリーもつけてくださいました。」





ゼリー!好きです!
と鬼灯様のお言葉に腕をバタバタさせながら食堂の方に向かってあーがとーでしゅ!と叫ぶと何人かの方が笑顔で小さく手を振りかえしてくれた。




「子供好きの方が多いので…みなさん、いつも紅に癒されていると仰ってましたよ。かくいう私もその一人ですが。」


「いやしゃれー?」


「はい。では、いただきましょう。」


「はい!いたーきましゅ!」



目の前のごはんに向かって手をあわせてそう言ってから、スプーンで黄色いものをつつくと中から赤いごはんが出てきておぎゃ!?と驚いたけど口に入れてみるととっても美味しくて、頬が緩んだ。



鬼灯様はお味噌汁を啜りながらわたしの様子をちらちらと見ていて、たまにお口の周りが汚れていますよ、と手拭いでわたしの口元を拭いてくださる。



と、その時テレビから聞き慣れた音楽が聞こえてきて反射的にテレビを見ると、鬼灯様も同じタイミングでテレビを見た。




「今日の夕飯はァ〜シーラカンス丼〜」


「おぎゃ!だいおーしゃん!」


「あれ?鬼灯君と紅ちゃんも今からご飯なの?一緒に食べてもいい?」


「はいっ!」



いつも見ているテレビ番組が始まってすぐに大王さんが現れたのでわたしは大王さんに挨拶したけれど鬼灯様はテレビから視線を離すことなく…いつも通りの鬼灯様にわたしは苦笑いしながらこちらへ歩いてくる大王さんにむかって手招きした。




「紅ちゃんは優しいなぁ〜。いっぱい食べて元気に育つんだよ?」


「おぎゃ!」


「うんうん、…あ、これ現世の番組?」


「そうです。CSにすると見られますよ。この番組司会者の存在感が好きです。」




現世の番組かどうかは知らなくて戸惑ったわたしをちらりと見て、鬼灯様は大王さんにそう説明してくださった。





わたしもこの番組、好きです。


今日はオーストラリアという場所の特集みたいです。どんな場所なんでしょう?とワクワクしながらテレビに視線を投げると鬼灯様はぽんぽんとわたしの頭を撫でた。




「………?あ?……そういえば君の仕事部屋に謎の人形があって何だろうと思ってたけど……あれ、クリスタルヒトシ君か!!!」


「一緒にモンゴルの民族衣装が当たりました。紅が大きくなったら着せてみようと思ってます。」


「凄いな!地味に!!あとその時はワシにも見せて!!」




え、わたしが着るんですか…?と鬼灯様のお部屋に置いてある民族衣装を思い浮かべる…。

……それを着るためにはこれからも元気で生きていなければいけませんね。苦いお薬も我慢して、ちゃんと治療をしてもらって長生きしますね!と鬼灯様に笑いかけると鬼灯様はわたしの言いたいことを察してくださったのか、わたしの頭を撫でながら少し真剣なお顔をしていた。







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