頂き物
□はなみずき様からの400hit記念
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「いかん、寝すぎたな。」
「もうお昼ですよ。会議の資料には目を通していただけましたか?」
「いや。まだだ。」
低く返事をした彼は、確かに苦しそうだ。
けど―。
「‥風邪ですか?」
いくつかサインのされている書類に目を落としながら、出来るだけ平然を装う。
「いや、ここのところ休みなしだったからな。」
「‥では、疲れましたと会議を欠席なさいますか?」
「ははっ。そうしたいのは山々だがね。そうもいくまい。」
軍というものは、決して甘くない。
普段デスクワークが主だとしても、いつ何があるかわからないこの軍において、身体を鍛え、常に心身共にコンディションを整えておくのは必須で。例え休憩の暇すらなく職務に追われていたためだとしても、体調不良を理由に休むことなど許されない。特に彼が“大佐という立場”であるなら尚更だ。上に立つ者が毅然としていなくては士気は乱れる。
さらに言えば。このロイ・マスタング大佐には、彼を良く思わない上官やライバルが多い。そんな隙を見せることなどしては、後々、“ありがたい激励”をしつこく受けることになるだろう。そんなことをいちいち気にするような彼でもないが、それでも無用な荒立てを起こさぬよう注意するに越したことはない。
「‥お薬を用意しておきますから、昼食を召し上がってきて下さい。」
「いや、いい。」
「ダメです。倒れたらどうするのですか。何か食べないと回復しませんよ。」
気持ちはわかる。それだけ熱があれば、食欲も無くなるだろうし、食べるより横になりたいだろう。けれどそんな時間は無い。休む時間がとれないのだから、せめて栄養をとらなければ、体がもたない。
彼は一瞬ちらりとこちらを見て、小さく頷いた。
「わかった。そうするよ。」
頷き返して、会議の資料を持って立ち上がる上官に手を貸す。
その手の熱さが、本人の表情よりもはっきりと体調不良を語っていて、焦燥とも不安ともつかない感覚に胸がもやもやとするが、そんなことどうしようもない。
「君は?君も昼食まだだろう?」
「はい。これを総務に提出してから行きます。医務室で薬も貰ってきますから、お先に行ってて下さい。」
「そうか。」
軽くデスクの上を整理して、上官を送り出し、足早に総務に向かった。