頂き物
□時雨様からの3900ヒット記念
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「今日は大佐は遅くなるんだってさ」
「フィ」
「シズ、嬉しそうだね」
くるくると喉を鳴らす彼の頭を撫でて、冷蔵庫の中の材料を漁った。
適当な野菜を適当に切って鍋にぶち込み、肉と水を入れて煮込む。塩胡椒を一振りするだけの簡単なお仕事です。
絶対に何かの名前がありそうな料理を皿に盛りつけ、ついでにポケモンフーズをよそった。
……。大佐が居ない夜、か。
別に寂しくはないけれど、
どこか物足りない気がするのはきっと、――いや何でもない。
+++
大佐は深夜、零時をすぎた頃に帰ってきた。「私は大総統だぞ……」らしい。
どうやらかなり酔っているようだった。服を着替えさせて、赤ら顔を布団に埋める。そうして居間に戻ると、
皆が酒瓶を崇めていた。
あ、いやすまん情報がおかしい。崇めるというか、興味津々の顔で数本の酒瓶を見つめていた。
『……何してるんだ』とりあえず突っ込む。
『カルトお兄ちゃん、これ何?』
『酒だろ』
ライの純粋な疑問に答えて、床の酒瓶を取り上げる。すると、
『あー!』
『酒……』
『うわカルトマジKY』
『信じられん』
『やめて、返して』
地味にブーイングがあった。
『何だよ、これは大佐のものだろ』
『違うもん。大佐が酔っぱらって店から持ってきたやつだもん』だもんって言うな可愛らしい。
『……じゃあ、これどうするつもりなんだ?』
『決まってるじゃない』
年長者のラキさんが、一歩前に出た。
にこ、と微笑を浮かべて。
けれど瞳の奧には、野心。
『飲むのよ』
飲むのよ。
飲むのよ。
飲むのよ飲むのよ飲むのよ飲むのよ飲むの『いやいやいやいや駄目でしょう』
『何でよ?』
『何でって……』言葉に詰まる。『その、未成年ですし』
『未成年? ポケモンの世界に、未成年なんて言葉があるのかしら』
『…………』ない。
ううん…………どうにも年上のラキさんには頭が上がらないんだ。
どうにかしてくれ、とサナに目を向けると、コップに酒を注いでライに渡していた。
あれっ?
『んー……まずい』
『じゃあ飲むなよ』
『良いのー。飲むのー』
ぷぅ、と唇を尖らせるライは、何とも可愛らしかった。
『ほら、カルトも飲みなさいって!』
……ラキさんにはどうにも弱い俺であった、まる。で締めくくれたら幸いなのになぁ。
笑顔でコップを差し出す彼女は片手にグラスを持っていて、既に飲んでいたようだ。元より桃色の頬に、うっすら赤みがさしている。
辺りを見ると、チルやソルまでもが顔を真っ赤にして酒を飲み干していた。
何だお前ら。飲酒したことあるのか。
コップになみなみと注がれた酒はうっすら黄色く、早く飲めと催促する。
薄ら笑いを浮かべて俺の表情を眺めるラキさんをごまかすため、豪快に中身を口内にぶちまけた。
『がは、ぐごぉえ!』げほげほげほ! と噎せた。酒が飛び散り、ラキさんのゲラゲラと甲高い笑い声が部屋に反響する。
さっき、グビグビ飲んでいたからな。酔いが回っているのだろう。とどこか冷静な思考回路が解説した。
喉が焼けたと錯覚する熱が痛みを伴って、ゆっくりと体中に浸透し、まどろむ。
俺が落ち着いてから、ラキさんは自分のグラスに酒を注ぎ、舌を舐めた。
『初めてなの? お酒』
『はい』
『どう? 初のお酒の味は』
『苦くてまずいです』と正直な感想を洩らした。
『あっはっは』
ラキさんが声だけ笑う。
視線を巡らせると、PTの大半は眠り込んでいた。
シズとソルは仲良く丸まって寝ていて、ライはチルの毛に頭を埋めている。そのチルは眠たそうに目をしばたたかせ、小さくあくびをした。
そして、サナが何故かポロポロと涙を流しながらエネに語っている。
ここからではよく聞こえないが、『アタック』とか『色香』とか『当たって砕けろ』などの単語を飛び交っていた。
『あら、……ふふっ』
『ラキさん?』
『何でもないわよん。ほらほら、飲みなさい飲みなさい』
彼女はニコニコと目元を細め、俺のコップに酒を注ぐ。
ううむ、どんな風に飲もうか。
どうせ飲むなら粋に飲みたいものだ。
考えるのも面倒なので、さっきと同様に飲み干すことにした。液面を脳裏に思い起こさせて、喉に流し込む。
すると、急に視界が明瞭に開けた。全身が火照り、元々高い体温が更に上がるのを感じる。くぁ、あ?
湯気が出てないだろうか。目の錯覚か? いや錯覚じゃない。ということは幻覚だ。うん、問題ない。
そんな俺を眺めていたラキさんが、ちびちびとグラスに口をつけた。