頂き物
□はなみずき様からの400hit記念
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食堂まで来てはみたものの、何も喉を通りそうもなくて、結局、パンを1つ無理矢理ブラックのコーヒーで流し込んだ。そんなことを言ったら、生真面目な副官に色々詰め込まれそうだが、まあ何も食べないよりはマシだろう。
(立場上か―。)
“立場上、倒れたりしては困る”と、“立場上”彼女は言う。
別に優しい言葉をかけてくれなどと甘えたことは言わないが。言わなくてもいいことをわざわざ言葉にして強調する辺りが、彼女らしい。
熱なんて大したことではない。普段よりちょっと頭が重く、ちょっと寒気がして、ちょっと食欲がないだけのことだ。いちいち、彼女がそんなに心配する必要もないというのに。
持ってきた午後の会議の資料に目を落としてはみるが、ガヤガヤとした空気の中ではどうも集中出来なくて、結局、執務室に戻ることにした。
「!大佐、もうお戻りですか?」
個人用ではなく、部下達の集まる執務室に戻ると、デスクで作業をしていたらしい副官がぱっと顔を上げた。部屋の中は1人で、彼女を電話番に皆休憩に出ているらしい。
「ああ。」
「何かお召し上がりになりましたか?」
一番奥の専用の執務机につくと、準備良く用意されていた薬と水の入ったグラスが差し出される。手早く飲んでグラスを返し、重い頭を組んだ両手に乗せる。
「‥中尉、食事はとらないのか?」
空のグラスを片付け、ワゴンでお茶を入れ始めた後ろ姿を見ながら、まあ何となく察しはつきながらも、一応訊ねる。
「ハボック少尉が先に出してくれたのですが。‥あまりお腹も空いてませんので。」
「‥そうか。」
いつもながら、彼女の選択には頭が下がる。会議をキャンセルというわけにはいかない。明日欠勤というわけにもいかない。早く部下達を休憩に出し、早く仕事に戻らせる。会議の間に、私のサイン待ちの書類も最低限に減らされ、細々とした業務も調整されるだろう。
そのために、まず犠牲になるのは彼女自身で。
しかし彼女は顔色も変えず、当たり前のように“副官ですから”と言うのだろう。
“立場上、当然だ”と。
邪魔にならないよう、デスクの端に差し出されたカップを取り、口をつけて思わず口許が緩む。
それに気づいていながらも、見ないふりを決め込んで、手早く書類を分類していく副官を目の端に留めながら、会議の資料に手を伸ばした。
彼女の淹れてくれたお茶は、ほんのりとハーブが入っていて。その香りは、淹れた本人よりも、その本心をよく伝える。
心配することはないが、こんな時間があるなら心配されるのも悪くない、なんて。
彼女が知ったら怒るに違いない。