中編小説

□おとな味
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「ゼン君、入学おめでとう」

高校の入学式。
弟、生島 善 (いくしま ぜん)は校門の前、桜並木の下でそれはそれは可愛らしく微笑んだ。

「お兄ちゃんも、大学おめでとう!」

澄んだ空のような透き通るボーイソプラノ。
弟は花のように微笑んで、兄の俺を見上げていた。

父親譲りの黒い天然パーマがふわふわと風に揺れる。
俺も天パだけど、弟の髪質は俺より柔らかくて、素晴らしく撫で心地が良い。
頭に付いたピンクの花びらを取るついでに、モフモフと撫でてやると、気持ちよさげに目を細めるその姿は、もはや天使としか言いようがないくらいに胸キュンものだ。

そう、俺の弟は、恐ろしく可愛い。

ちっちゃくてふわふわで目が大きくて肌はミルク色で、見た目は天使。

甘えたで、でも素直で、俺を頼って、朗らかで。中身も天使。

知らない。こんな可愛い生き物、この世界で弟以外見たことがないくらい可愛い。

そんな天使な弟だから、友達もたくさんいる。
男の子はもちろん、女の子の友達も。

時々弟の友達と言う子達が家に遊びに来るんだけど、毎回見たことない子が半分以上混じってる。
男の子も。女の子もだ。

だから、何気に俺も弟の同じ学年の子とは顔見知りが多い。

「あっ、ゼンのお兄さん、ちーっす!」

「入学おめでとう、マサキ君。これからもゼンと仲良くしてあげてくれな」

「もちろんッスよ!俺に任せてくださいッ」

「マサキうざいー。良さんこんにちは!」

「ああ、アカリちゃんも同じ高校か!おめでとう。ゼン君をよろしくね」

「はい、こちらこそです。エヘヘ」

俺の顔を知っている、弟の友人達は明るく俺にも声をかけてくれる。
ゼン君が入学した高校は家から一番近かった。だから結構同じ中学の友達が多いみたいで、安心だ。

「ああ、エツ君は学ラン大き目だね」

「そうなんですよ・・・親が成長期がくるからって・・・」

「うん、すぐに似合うようになるよ」

「ふふ、ありがとうございます」

俺は少し遠い進学校に通っていた。制服はブレザーだったので、見慣れない学ランとセーラー服が凄く新鮮である。
それにしても、真新しい学生服を着込んだ少年少女達がいっぱいで初々しい。高校一年というと、まだまだ幼い顔つきが沢山いる。
なんという可愛さだろうか。

と、次々俺にまで挨拶しにきてくれる弟の友達に楽しく返事をしていると

「お兄ちゃーん・・・」

凄く控えめに、俺の袖がクイクイと引かれる。

「ああ、うん、ごめんな。」

まん丸大きな目が上目遣いで俺を見上げている。
ふむ、これはちょみっと拗ねてるな。
俺がゼン君の友達を構い過ぎて取り上げてししまったみたいだ。
ごめんごめん、みんな可愛いけどゼン君が世界で一番可愛いよ。と、思わず言いそうになった。

しかしまあ・・・。ちょっぴり頬を膨らませて俺を見上げる弟が死ぬほど可愛い件。

目の前の新一年生達も、かわいいかわいいとマイエンジェルを構いまくっている。

わかる。その気持ち凄く分かる。

今は人前なので、俺の欲望が赴くままギュウギュウすることは控えているが、家に帰ったら存分に甘やかしまくろうと思うくらいに胸が苦しい。

「ああっもうダメっ、ゼン君可愛いい〜」

「キター!良さんの弟猫かわいがり!」

「あははっ。おにいちゃんっ苦しいっ」

結局我慢できなくなって、俺も俺も!と弟を撫で回し隊に参戦した。
人目なんてはばかっていられない。
弟の可愛さの前では全ての常識は無意味なのだ。


そうです。

俺、生島 良 (いくしま りょう)は、重度のブラコンです。
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