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□第1話
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序章 第1話 「別れは突然」







私には父親がいない。

母が言うには私が生まれる前に

病死したらしい。






もしも父が生きていたら

親子三人でにぎやかに暮らして

今よりももっと楽しかったのかな

と頭の中でよく考えたりする。




でも母さえいれば

私はそれでいい。


いままで母からの愛を

独り占めしてすくすくと

育っていったのだから

むしろ私は恵まれている方

だと思う。







私ももう15歳。


「死」というものが

どういうものなのかは

理解している。





死んだ者は二度と生き返らないし

人は必ずいつかは死ぬ。




ただ別れが突然なだけで。














あの日はとても

天気のいい日だった。





母と一緒に町に買い物を

しにいった日。



次はこれを買いにいこう、

その次にあれを買いにいこう

と会話しているときだった。




そんな町の空気を

一変させる銃声。




どうやらこの町で活動する

マフィアに喧嘩を売った人が

いるらしくナイフやら銃やらを

持ち出して激しくもめている。




そんなことはこの世界では

あまりめずらしいことでは

なかったが反れた弾丸が

自分に当たらぬよう

みんな必死に避難していた。





「おらどけよカスどもがあああああ」

喧嘩を売った男が負けを

認めたようだ。

ここから離れようと

こちらの方向に来る。





巻き込まれないように

端のほうに行こうとしたが

考えることはみんな同じだ。




私は人の波にはじかれ

母とも離れてしまった。









あわてて振り向くと男は

すぐ後ろにいた。



「キヒヒッ・・・。

邪魔くせえな・・・。

殺してやるよ・・・。

全部・・・。」






男の目は常軌をきっしていた。


男の視界に私が入り

邪魔だったのかナイフを

私めがけて振り下ろしてきた。






「あ・・・う・・・。」






どうしようもなくて、

怖くて、泣きそうになって、

勢いよく目をつぶったそのとき。








私は母に抱きしめられていた。







それと同時に


ドスっ・・・


という表しようのない鈍い音。






驚いて固く閉じたまぶたを

ゆっくりと開いた。








そこには、







母の体を裂くナイフ。



広がる飛沫。



私の体中に赤色の生暖かい

液体が掛かる。



人々の悲鳴。



快感を得て奇声を発する男。



倒れる母。







一瞬のことでなにが起こった

のかわからなかった。


というよりも目の前で起こった

現実を受け入れていない

のだろう。






「・・・。」

「・・・え?」

「お母さん・・・?」

「ねえ・・・お母さん・・・。」







そのとき母の目が

少しだけ開いた。






「! 

お母さん!

お母さん!!!!!」







母親の手はゆっくりと

私の手をにぎった。

その手はとても力強く、

暖かかったが震えていた。







「ミヤ・・・。」


「お母さん・・・?」


「あなたの今の目・・・。

やっぱりミヤは

お父さんの子供ね・・・。」


「目・・・?」

「ええ・・・きれいな緋・・・」




私の瞳は母と同じ黒色

なのに緋・・・って?

緋色って赤色ってこと・・・?






その瞬間私の手を握っていた

母の手がゆるんだ。






「お母さん・・・?

お母さん・・・おきてよ・・・。

まだ・・・死んじゃ・・・やだっ・・・」


「お・・・かあ・・・さん・・・。」


「・・・ねえ・・・なにか・・・

言ってよ・・・か・・・さん・・・」





抜け殻となり少しずつ

冷たくなっていく母。



それでも母に刺さった

ナイフは依然血を吸っていた。



その体を少女は抱きながら

返答があるはずもないのに

ずっとしゃべりかけていた。









そう・・・。

この日が私の人生を

大きく変えた。












 

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