《偃月》


□序章 傭兵の葬送・一
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〈傭兵の葬送・一〉




貴方を守るためなら死んでもいい。


そう思っていたのに。


守られたのは、わたし。


死んだのは、貴方。


仕事とはいえ沢山の人の命を奪ってきたわたし達だから、天国なんていける訳ない。


だけど、貴方とだったら何処でもいい。此処で死んで、追って行こうとも思ったけれど。


少しだけ貴方の真似をして誰かを守ってみたくなったから、もうしばらく待ってて。





「Nigel Barnes」と刻んだタグをぎゅっと握りしめて。


わたしは凍てつくような暗い暗い土の中に、最愛の人を見送った。


墓地は壬生寺の片隅。


小さな丸い石を置いただけの簡素な墓は、彼にしてみれば何だか可愛らしく見えて、わたしは少し笑った。


昨夜、わたし達を拘束した彼らは粗野なのか紳士的なのか、いまいち判別がつかない。


只、油断はならないし、するつもりも無い。


10年前、記憶を無くしたわたしを守ってくれた彼のように、今わたしの傍らに立つ男装の彼女を守ってみたいと思うから。


わたしは不安そうに此方を見つめる千鶴ちゃんに、小さく頷いてみせた。
















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