掌編

□four
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「――ボンジョールノ!!」



私の大声に言うまでもなくセブルスは眉をひそめて両耳を押さえた。ついでに唇だけを“やかましい”の形に動かす。


これだけでは誤解を招きかねないので一応言っておくけれど、

私だって好きで一メートルと離れていない100%余すところなくイギリス人気質の同居人相手にイタリアの挨拶をかける、というかぶつけているわけではない。

言うなればこれは抗議である。我々の間にでんと据えられた大皿の中身への。





あの出不精の彼がついてくると言ってからちょうど三週間後、今から数えると一週間前。私達はついにイタリアは南、サレルノのチレント地方にたどり着いた。

疲労困憊で。

なにしろ飛行機だったらあっという間にビュン、だったのに今どき私の仕事場から掘り出したのかい、的な思考を持つセブルスが

頑として鉄の塊が空を飛ぶなどというふざけた代物には死んでも、いいや、死んだって乗りたくないと言い張ったのだ。

私にすれば、船、電車と乗継ぎほとんど丸一日かけてくたくたのぼろ雑巾みたいになる方がよっぽどふざけてると思うが。

惜しむらくはケンカする体力さえも尽きていたのでろくすっぽ文句も言ってやれなかったことだろうか。


やっとその件でゴチャゴチャとわだかまっていた気持ちが美しいアマルフィ海岸で流されつつあったと思ったら、次がこれだもの。


「 なぜオレキエッテを等身大の耳のサイズになるまで煮たのよ・・・・」


その上何とも言えない奇妙な色をしている。だから創作料理はよすように言ったのに。


外食ばかりでは出費がかさむからと料理の当番制を申し出たのははたしてどちらだったか。

朝食に新鮮なトマトと、とろけるようなモッツァレラの挟まったチャパタを頂いた時点では私は完全に彼の料理の腕前と言うものを綺麗サッパリ忘れ去っていた。

よくよく考えればあれを作るのに必要なのはナイフ一本だったにも関わらずだ。




そして話は冒頭へと返るのだが、いくらイタリア人の魂であるパスタへの冒涜に怒りを覚えたからといってボンジョルノはおかしかったかもしれない。

アリーベデルチのほうがよかったか。

まあなんにせよセブルスは私の文句など鼻の先であしらってしまうのだけど。


手を付けられないままテーブルの上で冷めかけていた一つを彼はフォークで摘まみあげて―――効果音はデローンだ―――何でもないように口に運ぶ。


なんだか見るからに痛そうで思わず自分の耳を押さえた。


「 どう?」


「・・・・帰りは、」


セブルスはおもむろに何かをこらえるかのごとく眉間に手を当てる。


「 え?」


「 帰りは、飛行機で帰るか」




だからそれ以上その料理についての追及を私はあきらめた。


なんであれ、あの頑固な彼の反省を大いに促すようなものが入っていたことは確かである。



ついでに食べてないはずの私の気持ちも少し優しくしてくれた。



「 夕飯食べにいこっか、」




グランマと魔法の料理







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