掌編

□two
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トーストにマーマレードを塗っていたら、珍しく私より遅く起きてきたセブルスがハッキリしない声でなにやらボソボソ呟いた。

切れ切れに耳に届いた単語がベッドインに聞こえて思わず「ええ」と聞き返すと、彼は「ベーコンはいらん」と少し大きな声で言い直して向かいの席に着く。

その瞼が今にもくっついてしまいそうなほどむくんだ眼を見て、ははあ徹夜だなと見当をつけた。

大方例の薬学本を夢中で書いていたのだろう。私も論文で調子がでてきた時なんかによくやってしまう。

ただ早く寝て十分な睡眠をとっている“今日の私”には目玉焼きだけをセブルスの皿に乗せながら、ちゃんと寝なきゃダメでしょうと保護者面できる権利があった。

卵をフォークの先でつつきながらそれを適当に聞き流した彼は新聞、と日課のアイテムを探すような仕草をする。


「そろそろ来ると思うけど」


言っている間に開け放っておいた窓から茶色いフクロウが飛び込んできてテーブルの上に新聞といくつかの郵便物を落とした。

お礼代わりに与えたセブルスのベーコンをお腹に収めた郵便配達員が、元来た道へ戻って行ったのを確認してから窓を閉めた私は、すでに目の前で広げられている日刊預言者新聞の一面記事にそれとなく目を通しつつ、手紙類を物色する。


「あっ――ねえ見て、セブルス。リーマスの所から手紙が来てる」


新聞を少しずらして目だけを覗かせたセブルスがフン、と鼻であしらった。


「大方、子供の自慢話だろ」


そうかなあと言うまでもなく、封を切った途端ヒラリと落ちてきた写真には、テッドを中心にまさに破顔のリーマスと少々呆れ顔のトンクスが映っている。

手紙と写真を交互に見比べながら席に着いた私はいいなあ、と思わず声を洩らしてしまった。


「………なにがだ、」

「だって、とっても幸せそうじゃない」


いつでも家に遊びにおいで、と綴られている文字を指先でなぞる。

セブルスが数十枚の紙の向こう側で「お前は、」と言った。


「幸せじゃないのか」


ええ、と本日二回目のセリフが私の口からこぼれた。

私のセリフは、恨みがましかっただろうか。そんなつもりじゃなかった。


「幸せよ」


だって大好きな考古学が好きなだけ勉強できて、美味しい朝ご飯があって、なによりセブルスがいる。


「とっても」


強調するつもりが、却って嘘くさくなってしまった気がする。

聞いた癖、私の返事などに頓着した様子もなく彼はそうか、と頷いて新聞を畳んだ。頭のてっぺんに出来た寝癖がそれに合わせてピヨヨンと動いた。


「でもリーマスの家には遊びに行こうね、赤ん坊は羨ましいから」


もう言葉もしゃべるし歩けるんだって。本当に子供の成長って早いね。




生まれた時に抱かせてもらったせいか、私にとってもテッドの可愛さは尋常じゃない。

犬を見て彼がワンワンと言ったりする度「天才!」などと喜ぶ私を、セブルス含む三人の古い友人たちは陰でグランマと呼んでいるのだとか。

でもそんなこと言って、誰も見てないうちにコソコソとテッドに近寄って行ったうちの同居人が、握られた人差し指を離してもらえなくてオロオロしていたことを知っているんだからね。

彼はさしずめ無器用なグランパって所だ。


「………子供が欲しいのか」


飲んでいたお茶が気管に入り込んできて私は大いにむせたが、セブルスはいたって真面目な顔をしている。

はい、と言ったらまさかこの清々しい青空を尻目にこのまま寝室へ移行なのだろうか。


「 ま、まだダイジョウブです………」


今はそれより先に、色々としなければならない事が沢山ありますし。

でも予行練習位なら夜にしましょうか、と言ったら今度は彼が紅茶を新聞に吹きかけた。



 グランマとグランパ




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