All NIght Long
□chapter11
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またしてもあの、押しつぶされるような息苦しさに目を開けるとノーラは見知らぬ場所に座り込んでいた。
辺りを見回したくとも首は動かず、身体は固く強張ったままだ。見える限りの光景から察して、ここは広い屋敷またはお城のホールのように思える。
いったい何が起こっているのかと、呆然としていると沢山立ち並ぶ大理石の柱の向こうから何かを引きずるような物音が聞こえてきた。
それは共に息のもれるような音と機械じみた耳障りな雑音を引きつれてくる。
「――ようこそ、我が城へ」
彼女目の前に現れたのは4メートルほどあると思われる漆黒の大蛇だった。そして状況から察するに“カレ”は今、人間の言葉を発したらしい。
ノーラの驚きを悟ったようにヘビはまたさきほどのごとく不快な機械音を洩らした。どうやらこの音はカレの笑い声であるようだ。
「ようやく吾輩が話せるようになったというのに、君の声を聴くことが出来ないというのも残念だ。どれ……なにか言ってごらん」
近づいてきた蛇の長い舌が彼女のすぐそばを掠めた。身動きの取れないノーラから思わず小さな悲鳴が漏れると、カレはまた満足そうに笑った。
「悪くない」
声が出ると分かった瞬間、彼女の喉からも関を切ったように言葉が溢れる。
「こ、ここはいったいどこなんです?!私をどうやってここへ?それにあなたは夢の中の想像にしか過ぎないはずです!」
「おやおや、そんなにいっぺんに質問には答えられんよ。だがまるで吾輩が君を攫ったような言い方は気にくわんな。ここまで落ちてきたのは君の方ではないか」
「そ、それはいったい……?」
理解が及ばずノーラが苦しめば苦しむほど大蛇は愉快らしかった。機械質な声色を精一杯優しくして語りかけてくる。
「あちらの世界でも吾輩の姿を見ただろう?君はココとムコウの境を見失ってしまったのだ」
おかげで彼女は意識の途絶える前に見たカレの姿と、そしてこうなってしまった原因を思い出した。
そうだ、カレが誰なのかを彼女は知り得ていたはずである。
「私を退学にはさせませんよ。法律で禁止されている“夢遊術”で脅そうとしたことが間違いでしたね」
しかし大蛇の向こう側にいるはずの人間からは、思ったような反応を得ることは出来なかった。
「おや……君は退学になるのかね?」
「なん、ですって?!」
「それは“この”愚かな青年のした行いのせいかな?確かにアレは良い考えとは言えなかった」
カレが何を言っているのだろうと必死に考えるノーラにヘビは尖った牙を覗かせ、笑みを作る。
「しかし、すべては君を愛するが故だ。可愛いノーラ」
その黄金色に輝く瞳に絶句のため口を半開きにしている彼女の顔が逆しまに映った。
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