All NIght Long

□chapter10
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“突然訳もなく眠くなることがあるだろう。そういう時はね、お前の後ろから蛇が追いかけてきているのだから。決して気を抜くんじゃあないぞ”


ノーラの曽祖父は日本人で山師だった。色々な山々を軽々と駆け回り、大層目利きだったらしいのだが、死んだのはどこよりも登り慣れたはずの地元の小さな山の中だった。

いや、正確に言うと“死んだ”と言う表現は正しくないのかもしれない。どれだけ探しても遺体は見つからなかったのだから。

その曾祖父の口癖が蛇は人に催眠術をかける、などというものだったらしい。

だから彼が行方不明だと聞いた時、幼いながらも祖母は父が蛇に飲まれたのだと瞬時にして悟ったのだとよく言っていた。


「そのせいなのかは聞いたことがないけれど、私の祖母はハイキングにさえ行きたがらないの」


なにやら寝言を言いつつ、頭を椅子の肘掛けに何度もぶつけて続けているロンを眺めながらノーラは小さく笑う。

その隣では分厚い本を抱いたままハーマイオニーが彼女の肩に寄りかかり寝息を立てていた。

物語のたった一人の聞き手であるハリーが興味深そうに頷く。


「なんだか昔話みたいだね」

「そうね。ひいおじいちゃんは実際にそれを見た上で助かった、ということをそれは自慢げに話していたそうだから、おばあちゃんは露ほども疑わなかったらしいのだけど。よく考えたらおかしな所だらけなのよ。
そもそも日本に人を丸のみ出来るような大蛇がいるはずないんだから」


眠気に打ち勝つため4人は面白いこと、恐ろしいこと、かなりいろんな話を繰り広げていたのだが、2名が脱落した時点でノーラとハリーの話はどういうわけだか蛇の話に落ち着いてしまった。

ハリーが初めて蛇と話した時の話に始まり、パーセルタングの事、バジリスク、そしてヴォルデモートのことも少し。

彼女はそのどれもに興味津々な様子で時には小さな悲鳴を上げたりしながら、すっかり聞き入っていた。

ハリー・ポッターだってやはり男の子だから、そういう武勇伝をしかもノーラに話すことができるということに意気込んでいたということも勿論あるが。

そうしてひとしきり驚いたり笑ったりした後、ノーラが思い出したようにポツリと話し出したのが彼女の曽祖父の話だった。

単純だけれど、生きながらにして蛇に飲まれたというのはよく考えてみると恐ろしげでもある。


「あんまり眠いものだから、そんな話を思い出したんだわ」

「そうなの?僕はもう却って目が冴えちゃったけど」


そう言いながらメガネを取ってローブの裾で拭っているハリーの肩越しの闇をノーラは目を凝らして見つめた。

暖炉の明かりの届かないところに何かが動いた気がしたのだ。思わず腰を浮かそうとして、肩にハーマイオニーの頭が乗っていたことを思い出す。

しかし見間違いだったのかと目を逸らしかけた瞬間、目の端にギラリと光る金色の明かりが二つ飛び込んできた。

それは、まるで―――


「……僕は監督生だぞ!」


ロンの大きな寝言にほんのわずか彼女は気を取られた。ハッとしてまた目線を戻したがそこには全くの闇以外、何も存在しないのだった。



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