All NIght Long

□chapter2
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地下牢という場所はとにかく真っ暗だ。床もむき出しの石壁も、すべて。

この階のどこかにあるスリザリンの談話室も彼女自身は入ったことはないけれど、やはり真っ暗だということをノーラはハリー達から聞いている。

「だからスリザリンの奴らってジメジメしてんだよ」とはロン・ウィーズリーの弁だ。

そしてその中でも取り分け陰湿なのがセブルス・スネイプと彼の部屋だった。


過去二、三度レポートを届けに足を運んだことがあるが、部屋中に薬品の胸の詰まるような匂いが充満していたし、棚の上は爬虫類だったり魔法生物だったり気味の悪いもので一杯だった覚えがある。

噂によれば頭が二つあるような奇形児のホルマリン漬けまでがひっそりと飾られているらしい。出来れば一生拝みたくないが。



なにより今の彼女の足をすくませるのは、いつもならどこに行くでも同行してくれるはずの友がいない事だった。

スネイプと聞いただけで打ち合わせでもしていたかのようにそっぽを向いてしまった友人たちのことを思い出して、なんて薄情なのだ、とノーラは心の中で100はくだらない回数になりつつある悪態をつく。

同い年でスリザリン寮のドラコ・マルフォイも超がつくほど苦手としている彼女だったが、この瞬間ひょっこりと出てきてくれたならば、どんな悪口だって許してしまうに違いなかった。

こんなことならやはり、ついてゆくよと唯一優しく声を掛けてくれたハリーに頼めばよかったのかも、と少しだけ考えていいやとノーラやけに力強く首を振る。

それだけはダメだ。

そんなことをしたら自分のために親切な彼の一日をそれも朝から最低なものすること間違いなしだ。

(それからグリフィンドールの寮の点数をいたずらに減らしたくないという気持ちが少し。なにしろスネイプはハリーが視界に入るだけで原点を言い渡してくるのだ)


“ああでもここでこうしてグズグズしている間に、誰かが君を読んだのは手違いだったと告げに来てくれないかしら。”


簡潔に言えばあの深い闇色をした鋭い目に射すくめられて蛇に睨まれたカエルのようになってしまうのはなにもネビル・ロングボトムだけではない、ということである。

もっとも、この場所へ来るように言いつけられている時点でノーラはすでに目をつけられている生徒の一人となっている可能性も高いが――。




緊張で拳を強く握りしめているせいか、扉を叩く音がやけに大きく響いた気がした。

3回目のノックの後、入れと短い返事があって彼女は部屋の主が中にいたことにホッとした半分、ガッカリした半分の妙な心持ちになる。

重い戸を押して滑り込むように体を中へと押し込めばいつか来た時と変わらず、名も知れない濃い薬品の香りがした。

たしかスネイプが廊下などで脇をすれ違う時もこのような残り香が漂うことがあったことをノーラはボンヤリ思い出す。


「――……なにをグズグズしている」

「…っす、すみません」


慌てて進んだ部屋の奥は入口よりも更に暗く、決して明るい所から来たわけでもないのにぼやけた目がきちんと焦点を結ぶまでに数十秒はかかった。

真昼にもかかわらず、重厚そうなテーブルの上にはすでに蝋燭がともされている。

そのささやかな光すら闇色に染まるスネイプの身体に吸い込まれてしまっているようで、むき出しの彼女の腕や足ばかりが場違いに青白く光った。



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