All NIght Long

□chapter11
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「い、一体、今なんて……?」


ノーラは詰まりそうな喉をなんとか抑えて声を絞り出したが、ピクリとも動かないはずの膝頭までガタガタと震えが伝わった気がした。

今すぐにここから逃げられたら、とそれこそ切に思うが、きっとこの身体のこわばりが解けても今の状態では腰が抜けてしまってどうにもならないだろうとも思う。

驚愕と動揺を隠し得ない彼女の表情から思考の全てを読み取ったように、大蛇は笑った。


「………そうであろうな。君は見ているようで何も見ていない。愚かな青年たちのあのように明確な感情でさえもだ。ましてや吾輩の心の内など知る由もあるまい」

「あ、ああ、貴方はさっきからいったい何が言いたいのですか?!こんなこともう無意味なはずです!私をここから出して!!」


勢い込んでもう退学でも構わないから、と余計なことまで言い出しそうになる口を閉ざした。


「はは……女は少々愚かな方がいいという考えはもう古いのではないのか、ノーラ?もう少し頭を使った方が良いぞ」


なんとか体を動かそうともがくノーラの周りをグルリとカレは長い体で包囲する。びっしりと厚い鱗に覆われた体が廊下に灯った松明の明かりで怪しく光った。


「“ようこそ”と言っただろう。今からここが君の存在する場所だ」


冷たい尾が彼女の腕にきつく巻きつく。恐怖に思わず目を閉じた瞬間『恐れるな!』と頭の中で目の覚めるような怒鳴り声が響いた。

驚いて少し声をあげたノーラに大蛇が鎌首をもたげた頭を少し傾げる。


「……どうかしたのか?」


その様子からしてカレには今の声が聞こえなかったようだった。なおも耳の奥で何度も響き渡る声は留まることなく、彼女に語りかける。


『これはあくまでお前の夢だ。動くと思い込め。今は他にいらぬ思考をするな。さあ走れ!』


何処から聞こえるのかはおろか誰とも知れぬ声色だったが、今のノーラに他に縋ることが出来るものがないのもまた事実だった。

相手の罠ということもあり得るが、この内容が本当であるなら自分を不利にするようなものだ。

走れ、走れ、と繰り返す声にしたがって考えることをやめた彼女は、懸命に地面を蹴り上げる感覚だけを思い出すことを試みる。


「―――ノーラ!」


吠えるように大蛇が声をあげるのと、ノーラがつんのめりそうなほど体制を低くしたまま走り出すのはほぼ同時だった。



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