All NIght Long
□chapter9
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「――何って……あなた達が考えている通りだわ。夢遊術のことよ」
結局なし崩し的に彼らを巻き込んでしまっている自分が情けなくてノーラは深いため息を突きながら、包帯で巻かれた方の足をブラブラさせた。
ポケットに突っ込んでいたメモの切れ端を開いてハリー達に差し出す。
「誰がどんな理由でなのかは知らないけれど、私の夢の中に入り込んでいるらしいの」
彼女の言葉に3人は顔を見合わせた。
「で、でも夢遊術は魔法省で禁止されてるんだろ!いったいどうやって……」
「もうロンたら、そんなことも分からないの?その魔法を編み出した人が書いた原本がここにはあるのよ。ホグワーツの歴史にも載っていたわ」
そんなら君しかわからないだろうよ、とロンは信じられないといった様子のハーマイオニーの顔にしかめ面をしてみせる。
「そう思って私も、夜中に寮を抜け出して禁書の棚を見てきたの」
ノーラがきっと怪訝な顔をされるのを見越し、少し俯いて肘を撫でた。あの晩フィルチに驚いて山積みの本の角にぶつけてしまったところだ。
切り傷になっていたからやはり、あの出来事は夢じゃなかったと言える。
「でも……なかった」
「盗まれたの?」
「わからない。貸し出されているかどうかをマダム・ピンスに聞くのもためらわれたし。それで……これはあくまで私の想像なんだけどね…」
そこで言葉を切った彼女は何か考える様に一度唇を噛んだ。潜めた眉の間のしわが深くなる。
「時期を同じくして、禁書の棚の本が盗まれたのは知っているでしょ?魔法薬学の本。アレが見つかった時に私、たまたまその場に居合わせたんだけど……すごく高そうで目立つ本だった」
瞬きもせずにじっと話に聞き入っていたハリーがなにかひらめいた様に机を叩いた。驚いたハーマイオニーとロンがビクリと身体を震わせる。
「な、なんだよ、ハリー」
「なんだじゃないよ。分かるだろう?盗まれた禁書は初めから2冊だったんだ!夢遊術なんて誰も見向きもしない本だから、魔法薬学の方に気を取られてマダム・ピンスも気づけなかったんだろう」
自分の考えていることを代弁してもらったノーラはまた青ざめてきた顔でうなずいた。この行動が計画的であればあるほど恐ろしかったのだ。
「ああ、クソッ!そんな正体不明の危ない奴がウロウロしている時に限ってダンブルドアはいないんだもんなあ」
「まだそうとも言えないわよ。私達が本で調べたことを忘れたの?」
そう言ってハーマイオニーは少し勿体ぶったようにメモの切れ端の文章を指で指示した。
“夢の中でイメージのない相手をハッキリと具現化することは難しい”という所である。ノーラがいまいち理解できていない場所でもあった。
「言葉の通りよ。入るものと入られるものが通じ合えていない時、侵入者はそのものの形を保つことが出来ないの。
それが返って悪用する人には好都合らしいけど……でも、ヒントぐらいにはなるわ。あなたがその人間に対して持っているイメージなんかが反映されるから」
「夢に出てきているものからあなたは誰を想像するの?」と唐突に聞かれてノーラは少々弱ってしまった。
黒い体に黄色い目をした大蛇。そんなに恐ろしげな人間が何処にいるのだろう。
しばらく考え込んではみたものの、思い当たらないと答えかけてハッと息を呑む。
今朝の夢。煙の中から出てきたのは―――
「ノーラ、どうかしたのか?君、顔が真っ青だぜ」
「う、ううん…なんでもないの。なんでも……」
まさか。そんなはずがあるわけないのだ。
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