All NIght Long
□chapter7
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なんらかの揉め事に巻き込まれているのは火を見るよりも明らかだって言うのに。
ハリーやノーラがお互い助けようとも、助けてもらおうともしないでいることがハーマイオニーやロンにとってはどうにも理解しがたいことの様だった。
何処までも友達思いな彼らの心優しくて真っ直ぐなところを彼女はとても好んでいたが、大切だと思うからこそ巻き込むわけにはいかない時もある。
あなた達のそういうところがそっくりですごくお似合いね、と悪気なく言った言葉についてお互いが必死に否定しあうのを苦笑しながら聞き流していたノーラは、今しがた部屋から取ってきた闇の魔術に対する防衛術の教科書をパラリと開いた。
“夢遊術または無逢術について”と書かれた目当てのページを見つけると、少しばかり震える指で印刷の荒い文字をなぞる。
夢遊術――またの名を無逢術ともいう――は古来よりアジア、特に日本に置いて多く用いられたた魔術である。
ヨーロッパの箒や西アジアの魔法のじゅうたんのように空を飛ぶ手段を持たなかった彼らが牛や馬の足を速めること以外で緊急に用いていたと、古代の魔法歴史書には記されている。
夢遊術を使用する場合、特に恋人など心の強く通い合う者の夢の中に入るのが好ましい。
不審なものが夢の――とりわけ魔力を持った人間の――中に入ろうとすると、拒否反応が生まれるため、呪いに近い性質をもつからである。
体験者によれば夢の中に入られたものは覚醒時と同等に意識を保つことが出来るが、身動きは取れなくなることがほとんどであるということだ。
夢遊術の専門家である偉大な魔女スティラーナ・チェミアーゼ氏はこの夢遊術と恐怖に置いての強い関連性を指摘しており、彼女の“汝、恐怖に隷従せよ”という言葉はあまりにも有名である。
最近の研究によって段階につれ影響を強くするこの魔術の初期においては猫が大変有効であるという事実も証明されつつあるが定かではない。
なお、夢遊術はその利用法の残酷さにより魔法省によって現在、使用を禁止されている。
―――ひと通り読み終えたノーラはバタンと本を閉じて一つ大きな深呼吸をした。そうでもしなければ、一塊になっている頭の混線が解けそうにもなかったのだ。
そして、ようやく言い合いをやめたハーマイオニーに向かってなるべくそれとなく聞こえるように尋ねた。
「……ハーマイオニー、あなた“夢遊術”って知ってる?」
「え?……ああ、詳しくはないけれど聞いたことはあるわよ。なんでも18世紀にとある魔法使いの貴族が好意を抱いた女の人を何人もその魔術によって殺したり、狂わせたりしたらしいの。
被害にあった女性は最後まで“黒い狼が来る”と口走ってたとか。その使用方法があまりに残忍だったので男は処刑され、無遊術は法律で禁止されることになったの」
「おええ、ヘンタイ猟奇殺人者(サイコ・キラー)か」
これ見よがしにえづいて見せたロンをハーマイオニーが顔をしかめて目の端で睨みつける。
「でも彼は自分ではそうは思っちゃいなかったらしいわ。最後まで無罪を主張していたそうだから。彼の一族も――とっても有名な純血の一族だったらしいけど――その事件によってちりぢりになってしまったみたい。枝分かれした一族はまだ残っているわね」
それよりもなんでそんなことを聞くのか、という方が彼女は知りたいようだった。慌ててノーラは「なんとなく」と言葉を濁したが信じてもらえたかどうかは定かではない。
「それって、やっぱり詳しい書籍は貸出し禁止の本棚だと思う?」
「もちろんそうでしょうね。でもコッソリ見に行こうという気ならお勧めしないわよ」
「………なぜ?」
「最近あそこの本が一冊行方不明らしいの。マダム・ピンスや先生方がしょっちゅう見回りをしているわ」
そのたっぷりとした栗色の髪を撫でつけた少女が、ほら助けを求めるなら今よと言わんばかりにニッコリ笑った。
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