本棚

□神様になんて祈るだけムダ
1ページ/8ページ

油断していた。まさにその一言に尽きる。昨日の夜、エースに全てを話しあたし自身もどこかくすぶっていたものから解放され、すっかり意識を飛ばしていた。仕事疲れに昨日の逆トリ騒動、梵天丸の世界へ行き親子喧嘩の仲裁と治療、買い物にエースとの会話。かなりの疲れとストレス、今まであたしを縛っていた苦しみからの解放により、普段なら考えられないくらい深く眠っていたらしい。

「沙羅起きろー!!」

「もう昼よい!!」

エースとマルコが部屋に突撃訪問し、あたしの上に飛び乗るまで気付かなかったからだ。

『ぐっは!!』

ジャンプしながら飛び乗ってきたがきんちょ2人による目覚ましは強烈だった。うつ伏せでベッドに寝ていたあたしの上に2人は見事に着地した。

「おはよう!!沙羅!!」

「おはよぃ!!」

『おう…おはようございます。』

2人に乗られたまんま挨拶され、あたしも挨拶を返す。背中の上で2人は起きた!!だの遅いよぃ!!など喋っている。

『起きた。ちゃんと起きたからお前らどけ。重い。意識が起きてても体を起こせない。また寝るぞ。』

「嫌だ!!」

「嫌よぃ!!」

これまた勢いよく退いてくれた2人。扱いやすくて助かるよ。体を起こし、ベッドサイドに置いていた煙草に手をのばした。とりあえず朝の一服、これ大事。

『あ?もう11時過ぎてんじゃん!!』

久しぶりに爆睡したらしい。ヤバい朝飯…

『お前ら朝飯どうした?』

「?毘沙門が作ってくれたぞ!!」

「お手伝いしたよぃ!!」

やらかしましたー!!梵天丸を預けて一睡もしてない暁緒に朝飯まで作らせちゃった…。しかも自分爆睡とか…見返りに何を要求されるか分かったもんじゃねぇ!!
煙草を灰皿に押し付け、ベッドを軽くだが整えてからクローゼットを開ける。レザーのショーパンに赤いキャミ、体に巻きつけるような形になった黒のトップスを出し、高速で着替えた。着ていたものを抱え、がきんちょ2人を連れて部屋を出る。
途中で風呂場に寄り、洗濯機をセットして、顔を洗う。そうしてようやくリビングに着いたあたしを待っていたのは、キラキラした笑顔の暁緒とテレビを見ている梵天丸、ソファに座って本を読んでいたサッチだった。

『オハヨウゴザイマス。』

「あぁ、沙羅やっと起きたんですね。おそようございます。」

『何かあの…とりあえずすいませんでした…』

「気にしないでください。」

いえ、気になります。その笑顔が恐いんですけど、なんて言えるわけもなくあたしはただ乾いた笑顔をもらすしかなかった。

「梵天丸の熱も下がりました。もう大丈夫でしょうが、今日一日は安静にお願いしますね。」

『もともと今日はどこにも行く予定ないし、家で勉強させようと思ってるから大丈夫だろ。』

試したいこともあるしな。

「なら良いんです。今日と言ってもあと半日ですがね。」

『ソーデスネ。昼飯作リマス。』

煙草を吸うこともせずにあたしはキッチンへと向かうのだった。今の暁緒からは少しでも離れたい。

「顔色が良くなりましたね。雰囲気も少し軽くなった。」

『過去の過ちをひとつ、乗り越えたからな。』

「それは良かった。貴女の傷は多い。荷物はひとつでも少ないほうが良いですから。」

『性分なんだろうよ。もう諦めてるさ。』

「でもそれによって救われてる人も多いですから。私もあの少年も。ひとりで抱え込みすぎないで下さいね。」

『努力はするさ。』

暁緒との会話を背を向けることによって終わらせ、あたしは再びキッチンへ向かうのだった。


(多少の無理は覚悟しとくか。アイツ、おそようございますって言いやがった。根に持ってんじゃねぇか。とりあえず暁緒のご機嫌取りに昼飯は和食にしとくか。)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ