人間審査(旧)
□第8審
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「契約しよう」
「だ、誰ですか?」
目の前には、黒い翼を持ち、痩せこけた左の頬に刺青のような黒い模様が印象的な──得体のしれない何者かが不敵な笑みを浮かべていた。
「俺か?ま、俺とお前しかここには居ないけどな──」
そして、ここにお前を連れて来たのも俺だがな──
と。
「そういえば、ここは──?」
僕は重い心臓病で寝たきりの状態だった。
先程まで病室にいたはずだったのに──
ここは、病室ではないようだ。ベッドもなく、椅子もない──何か特徴的な物が置いている訳でもない、むしろ、何もない場所である。
そこは壁すらも、天井すらも、床すらも──無いように感じる。
果てすらも──
「まだ最初の質問に答えてないのに、次の質問をするな」
「じゃ、じゃあ──まず、あなたは?」
「俺は『幻影魔(シャドウ)』、悪魔だ」
「あ、悪魔?」
「そう、悪魔だ──と言われても、ピンと来ないだろうが、これが事実だ──そして、ここは、『意思の世界』。勿論、お前のな」
「『意思の世界』?」
このシャドウという悪魔が一体何を言っているのか解らなかった。
それに──契約とは何のことだろうか。
僕には、何のことか、さっぱりだった。
「お前、今どういう状況か分かってるか?」
状況?
自分の『意思の世界』にいて──
そういえば、何故こんな場所にいるのだろうか──
「分かってないようだな──いいか?驚かずに聴けよ──お前は死んだんだ」
「………………っ!?」
死んだ──
死んだようだ──
死んでしまった──
死んだ!?
死んでしまった!?
嘘だ──
信じられない。
信じたくない。
嘘だと──信じたい。
「信じられないっていう顔だなぁ──まぁ、そうだろうよ。いきなり、『お前は死んだ』と言われても、お前の身体はそこにあって、『意思の世界』と言われても、自分の中に意思は──心は──ちゃんと自分の内にある──信じられなくても、仕方のないことだろうよ。しかし、全て『事実』であり、『真実』だ」
悪魔は長い爪のついた手で、刺青のような黒い模様を撫でて、言った。
「そこでだ──俺と契約しないか?」
「け──い、やく?」
「そう契約だ。つまりは、取り引きだ──簡単に言ってしまえば、買い物みたいなものだ」
契約。
しかも、その相手は悪魔だ。
..
ただの契約ではない。
まぁ、契約に『無料(ただ)』など有り得ないことだが──
「条件は簡単だ──その上、容易い」
この場合、『生命(いのち)を差し出せ』という展開になるのがよくあるパターンだが(こんな状況がよくあってもらっては困る気もするが)
悪魔の話によると、生憎、死んでしまったようなので、その差し出す生命が無い。
「お前は今から蘇生される。つまり、生き返ることが出来る──」
生き返る!?
そんなことが出来るのか!?
相手は悪魔だ。
何でも出来ると言っても過言ではない。
「──その代わりに、しばらくの間、お前のその身体を貸してくれ」
しかも、その代償は、『身体を貸すこと』──
たったそれだけ──
「身体を借りて何をする気ですか?」
「『人間審査』だ!」