戦国KISEKI
□第漆話
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『…………。』
それから約一ヶ月の時が経ち、季節は夏となった。
(それにしても毎日読書と将棋ばっかり…潜入してるとはいえつまんな過ぎるんだけど……)
城の敷地から出ることを許されておらず、また趣味の多くが一人遊びである赤司の相手ということで、一ヶ月という期間は紫原を退屈させるのに十分だった。
『敦、土佐には何か変わった物はないのか。』
その日も赤司は、視線は自分が持っている書物に向けたまま紫原に問いかけた。
紫原は少し考えを巡らせてみたが、特に思い当たるものもなく首を振る。
『ないよ。なーんにもない、ただの田舎。大したおもちゃもないから遊びだって川で泳いだり虫捕ったりするだけ。』
しかし、赤司はその言葉に引っかかる部分があったらしく、珍しく書物を閉じて紫原の方に顔を向けた。
『虫?虫を捕ってどうするんだ。』
『えっ、別に何も…その場で放す時もあるし家に持って帰って飼ったりもするよ。』
そんなところに食い付かれるとは思ってもみなかった紫原は目を丸くしながら答えたが、赤司はより興味津々で身を乗り出す。
『虫を飼えるのか?逃げてしまわないのか?』
『籠に入れとくんだよ。赤ちんだって、馬を小屋に入れてるでしょ。』
『…………。』
『…赤ちん?』
外に出たら必ずと言っていいほど馬の世話をしていた赤司にとって、その言葉は簡単に決め手となった。
『……行くぞ。』
『え、』
数分後、二人は緑間のいる母屋の戸を叩いていた。
『虫を触るなど言語道断なのだよ!』
話を聞いただけにも関わらず、緑間は鳥肌の立った腕をさすりながら言った。
『ミドチン虫怖いのー?』
『なっ!そんなんじゃないのだよ!!』
『ならば来い。命令だ。』
『…………。』
初めの抵抗は最早意味を成さず、また、緑間も俗世とは隔離された身であったので、この二人との時間は実際本人にとっても貴重なものだった。
それから3人は、暇さえあれば外へ出るようになり、蜻蛉釣りをしながら話をしているといつの間にか日が暮れてしまうといった日も少なくなかった。
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