戦国KISEKI


□第陸話
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「よう来たなぁ、2人共。」



京に着いた2人を、今吉はこの上なく丁重に出迎えた。



「真麻も連れて来いと仰せになったのは何故ですか。」


赤司は腰を下ろすなり何の前置きもなく核心に触れる。



今吉は目を細め、少し間を置いて言った。



「…何故?元々彼女は京の人間やろ。」



御簾越しのその表情を読み取る事は出来ず、赤司は早くも警戒心を顕にする。



「つまり…返せ、と?」



「いやいや。恋仲の2人を引き離すなんて、そんな野暮な事はせぇへんよ。今回の話は、むしろそちらさんにとっても都合えぇ話やと思うんやけど。」



今吉は簾をくぐって二人の前に姿を現すと、真麻を指差した。




「…彼女を、養女にしようと思う。」




「なっ…」



あまりに突飛な申し出に、赤司も真麻自身も目を見開く。



今吉は続けて事情を説明した。



「情けない話、ワシと今の中宮の間には子が出来んのや。唯一の後継者は義弟の真やけどアイツはワシと歳も変わらへん…継承してもすぐに次の世代が必要になるやろう。」


その言葉に赤司は違和感を覚えて口を開く。


「…ならば、真麻を帝様の側室として迎えた方が手っ取り早いのでは?」


(えっ…)


真麻はびくりと肩を震わせて赤司を見た。



しかし、朝廷に引き渡すために自分は連れて来られたのか、と絶望するも束の間、不安に冷えた手を赤司がしっかりと握る。



(…征十郎様…?)



赤司は何も言わず今吉を見据えていた。



「赤司殿がそれでもえぇって言うんやったら是非そうさせてもらいたいところやけど…」


今吉は重ねられた2人の手を見ると、言葉を区切ってニッと笑う。


「言うたやろ。野暮な事はせぇへんって。」



「…貸しを作るおつもりですか。」



赤司は一層視線を鋭くするが、対する今吉は困ったように眉を下げた。



「そんな警戒せんでえぇって。これは正当な取引や。彼女を養女として公家に迎え入れ、赤司家に嫁がせる。公家の娘となれば結婚に反対する者はおらんやろう。」


「…ですが、それは取引と言うにはこちらの利が大き過ぎます。」


「こっちは要望を1つ聞いてくれさえすればそれでえぇんや。彼女が赤司殿の正室になる事を許す。その代わりに…第一子をこっちに寄越してくれへんか。」



それは、最初の申し出よりも数段驚くべき事だった。



「!それは…将軍家の子を天皇家に迎えるという事になりますが、よろしいのですか?」


「事実上はそうなるわな。しかし天皇の娘が生んだ子なら天皇候補には違いないやろ?」


「確かにそうですが…」


想定外の展開の連続に、赤司はもどかしさを隠しきれない。



「赤司殿にとっても悪い話ではない筈やで。将軍言うても所詮は天皇家に認められただけの身分…武家である事に変わりはないんや。けど、自分の子が天皇になったとなれば話は別物…朝廷においても絶大な権力を手にする事になる。どうや?魅力的な話やろ?」



今吉は人の良さそうな笑みを浮かべて言うが今の赤司にはそれが不快で仕方なかった。



(チッ…こちらが仕掛けようとしているのを予測し、公武合体を持ち掛けて来るとはな…これでは攻撃の理由もなくなってしまう…)



赤司が何を考えているのか分かった真麻は、心配そうにその横顔を見つめる。




「…まぁ、赤司殿もまだ若い…そんな簡単に決断出来る事とちゃうやろうし、また日にち置いてでも…」



しかし、今吉がそう言って立ち上がった瞬間赤司は決意と共に目を開いた。




「いえ、受け入れます。」




「!」



それには流石の今吉も驚いたのか、これまで浮かべていた笑みが一瞬消える。




「こちらの跡継ぎは次男でも構いませんし、正五位とはいえ、遊女と恋愛関係にある事をよく思わない輩がいるのも事実…断る理由がどこにありましょうか。」



迷いのない瞳でそう言う赤司に、今吉は満足そうに頷いた。



「…賢明な判断や。こっちもこれから色々と準備あるし、それに祝言は暑くない時の方がえぇよな……じゃあ、夏の間は2人で江戸で過ごして、秋になって少し京で暮らしてから祝言にしよか。」



真麻に目線を合わせて話す今吉は早くも義父のようである。



「承知しました。他にお話は?」



赤司が割り込むようにそう言うと今吉は首を振ったので2人はこれで退室した。





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