戦国KISEKI


□第伍話
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「…どういう事なの?」



実渕は部屋に戻るなり赤司に向き合う。



「真麻は征ちゃんを愛してたのよ?幻滅するなんて何があったってあり得ないじゃない!真麻ならこんな酷いやり方しなくてもきっと正室になってくれた……なのに、何で…!」



やりきれない様子で俯く彼の正面に、赤司は自分の掌をかざした。




「この手は…真麻の嫌いな手だ。汚い汚い、人殺しの手だ。言われて初めて気付いたよ…僕は、危うく彼女をその汚い世界へ引きずり込むところだった……」



赤司は寂しげにそう言って拳を握り締める。




「でも…真麻はこんな事になった今も、まだ征ちゃんを想ってる…人を斬る所を見られたからって、征ちゃんが愛を以て求婚すれば、真麻は躊躇わず受け入れ……」



「…それでは駄目なんだ。」



きっぱりと告げるその目に迷いはなかった。




「初めて会った時、真麻は人間の悪意なんてまるで知らないような美しい目をしていた……きっとそこに惹かれたんだろうな。僕が、とうの昔に失くした物だ。」



「…………。」



実渕は何も言えなくなる。



赤司の言いたい事は、痛い程よく分かった。



「幼少の頃から大人に囲まれて育ち、正式に跡取りとなるまでどれだけの人の妬み嫉みに触れてきた事か……そして、気付いた頃には僕もその汚れた社会の一員…いや、正しくは先導者か。長い間ここにいるせいですっかり麻痺してしまったよ…この間ばあやと大老を殺した時の感触すら、もう思い出せない。」



自嘲するように言う赤司が辛かったが、否定出来ない事実に実渕は思わず目を伏せる。


「…仕方なかったのよ…こんな汚れた世界に生まれて、染まらないなんて無理な話だわ……征ちゃんも、私も。」


赤司は微笑んだまま、そうだな、と呟いた。



「それでも真麻にはずっと綺麗なままでいて欲しい…そのためには僕や、この世の汚れた全てのものに抗い続けないといけない。」



その言葉で、実渕はようやく今までの真意を理解する。



「だからあんな風に突き放したの?それに…抗い続けるって事は、これからもずっと…」






「傷付けてでも守りたい程…愛しいんだ。」






そう言った赤司の顔を見た瞬間、実渕は目を見開いた。



「…征ちゃん…」




「心配ない、真麻は必ず嫁に来る事を選ぶ。他の者に責任が回るような事はしない奴だ。それに、地下牢にいれば大奥や老中達の手も及ばないだろう?婚礼の儀を終えるまでは、いつ誰に命を狙われるか分からないからな………だから、」



延々と真麻に思いを馳せる赤司を堪らず抱き締める。




「…分かったわ…もう、何も言わないから……っ…泣かないで……」




赤司は少し驚いたような顔をした後、実渕の肩に顔を埋めた。





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