戦国KISEKI
□第伍話
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『…恋人ごっこ…?』
『まさか、僕が本当にお前を愛して嶋原から連れ出したと思っていたか?』
眉を下げてそう言う赤司は今までとはまるで別人だった。
『お前は、初めから朝廷を挑発する為の鍵に過ぎなかった。』
『!』
はっきりと告げられたその言葉は真麻の心の奥底まで突き刺さる。
『だが、僕はこれでも感謝している。お前がまんまと騙され僕に惚れてくれたお陰で、今朝廷の不満は着々と募っているのだからな…あともう一押しで奴らは挙兵するだろう。』
それを聞いた瞬間、真麻の表情は絶望に変わった。
『…朝廷と、戦争を起こすおつもりなのですか…!?』
『一国にトップは二人も要らないだろう。』
赤司は涼しい顔をして答える。
『私のせいで、戦が…また人の命が奪われるなんて……嫌です、そんなの嫌です…!!』
『今更言ってももう遅い。止めたかったならあの夜、嶋原に残るんだったな。まぁお前がそうした所で、僕はまた別の鍵になるものを探すだけだが。』
真麻は少し俯いた後、赤司の双眼を見据えて告げた。
『……私、城を出ます。』
赤司の眉が少し上がる。
『人を殺める手伝いをするくらいなら…吉原で身売りでもして生きていく方が、ずっと…………っ!?』
そこから先は、口付けによって塞がれた。
しかし、それは愛情表現というにはあまりに物理的で、感情のないものである。
『そんな事は、許さない。』
『何故ですか!愛していないなら、手放してくだされば良いものを…!』
悲鳴のような真麻の声も無視し、赤司は先程落とした刀を拾うと今度は自らで真麻の首に刃先を向けた。
『お前にはまだ、正室となって朝廷の面子を潰すという仕事が残っている。自分が身分を与えた者が将軍家に寝返ったとなれば流石の天皇も、黙ってはいられまい。逆らうと言うなら……僕はお前を殺す。』
真麻は恐れを感じながらも赤司の顔から目を離さない。
すると驚いた事に、今現在自分を脅しているその瞳は、切なげに揺れていたのだ。
よく見ると、刀を握る手からも殺気は微塵も感じられない。
『…征十郎様……?』
真麻が目を丸くしているのに気付き、赤司はすぐさま視線を逸らして刀をしまうと足早に出口へと向かった。
『…考える時間をやる。大人しく娶られるか殺されるか……どちらかに諦めが付くまで、お前にはそれ相応の場所にいてもらうぞ。』
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