戦国KISEKI


□第陸話
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五月晴れが爽やかなある日、江戸にもついにあの連絡が届いた。



「征ちゃん!」


実渕が慌しく襖を開けて入ってくる。


「どうした。」



「勅命よ。真麻を連れて朝廷に来いって…」



その言葉に、赤司は驚きはしなかったものの微かに眉を上げた。



「…何故真麻も行く必要がある。」


「分からない…ただ、結婚の噂を聞き付けたのは確実ね。」



「婚儀の前の悪足掻きか…?一体何を考えているんだ……」



朝廷の企てを推し測るも答えは出ず、赤司は一息吐くと壁に掛かっていた上着を羽織る。



「…まぁいい、真麻に支度をさせてくれ。」








「京へ行くのですか!?しかも、私まで…」



依然地下での暮らしを続けていた真麻は牢の鍵を開けながら実渕が告げた言葉に目を丸くする。



「えぇ…でも征ちゃんと一緒なら何の心配もないから……なんて言っても、もう信用出来ないわよね……ごめんね。」


実渕は手を差し伸べながらそんな事を言ったが、真麻は立ち上がって首を振った。


「…謝らないでください。私が征十郎様から離れられず、結局は正室となる事を選んだのですから……本当に、自分の利己心の強さが嫌になります……」


牢獄の扉が開かれ、久々に拝む太陽はやけに眩しく反射的に目を背けて足元を見つめる。



そんな真麻の肩を実渕は優しく叩いた。



「愛する人と結ばれたいと思うのは当たり前でしょ。あなたは間違ってない。」



そのまま部屋に戻り支度を済ませるまでにはそうかからなかった……のだが。






「遅かったな。」



先に馬を小屋から出して待っていた赤司は、相も変わらず刺のある口調でそう言った。



「…申し訳ございません…」


不本意そうにしながらも謝る真麻にスッ、と手が差し出される。



「?…何でしょうか。」



無言でこちらを向いている赤司の掌に真麻は首を傾げた。




赤司は溜息を吐くと真麻の手首を掴み、体を引き寄せて抱え上げる。



「手を貸してやると言ったんだ。自力で馬に乗れるというならば話は別だが。」



ひょいと馬に乗せられた真麻はしばらくの間きょとんとしていたが、続けて赤司も乗るとハッとなり慌てて礼を言った。



「…ありがとうございます、」



「ちゃんと掴まれ。以前乗せた時にも言った事だ、何度も言わせるな。」



面倒そうにそう言われ、ふと初めて出会った日の事が思い出される。




(…あれから何度こうして共に出かける事を夢見た事か……ようやく叶ったというのに……もう、何もかも変わってしまった……)




唯一、赤司の背中が温かいままであった事が余計に悲しみを誘い、真麻は蹄鉄や風の音に紛れて静かに涙を流した。





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