戦国KISEKI


□第参話
1ページ/4ページ

「あー、寒……明日オレ非番だから、2人で頑張ってねー。」


寒さに震えた声でそう言う紫原とは裏腹に、黄瀬と春奈はビシッと敬礼で返した。


「「了解/っス/です!!」」



その日降った雪は翌朝、分厚く地面を覆っていた。






「…なんて、意気込んで言ったものの…特にやる事ないよねー…」


「…ないっスねー…」



春奈と黄瀬は、自分達を埋めようとする雪に逆らうようにざくざくと城の敷地内を歩いていた。



「歩兵隊に入って1ヶ月…私達毎日城の周り巡回してるだけだよ…いい運動にはなってるけど。」



「まぁ、それだけ江戸が平和って事じゃないっスか?」



黄瀬がそう言うと春奈は「そうだけどさ…」と呟く。



「これじゃあ道場にいた時の方がたくさん剣振ってたし、何か今鈍ってる気する…そうだ涼太、ちょっと手合わせしてよ。」


そう言って立ち止まった春奈はシャキン、と腰から提げていた刀を抜いた。


「真剣で!?」


黄瀬は思わずツッコんだが、春奈はしれっとしている。


「寸止め出来るくらいの腕はあるでしょ。」


「で、でも……って、春奈っちいつ刀買ったんスか?」



黄瀬の言う通り、彼は自前の剣を持って村を出たが春奈は突然の出立だったため、持っていたのは道場から持ち出した1本の木刀のみだった。



しかし今、彼女は立派な日本刀を手に黄瀬に向かって構えているのだ。



「あ、これ?将軍様がくれたの。」


「えぇっ!?」


かっこいいよねー、と改めて造りをまじまじ見つめる春奈に対し、黄瀬は(あの人が!?)と、転ばされた日の事を思い出す。


「真剣は竹刀よりずっと重いから素振りして慣れとけって。」


「へぇ、いい人っスね…」



黄瀬が感心したのも束の間、



「で、これで涼太の刀をへし折ってこいって言われてるの。だから決闘しよう。」



春奈はそう言って再び戦闘体制に入った。



「何で!?ってか、最早手合わせでも何でもないじゃないっスか!!」


「大丈夫大丈夫。私の目標は涼太じゃなくて刀だから怪我はさせないよ。」



黄瀬は先程まで、今日は雪で足場も悪いから滑って春奈に怪我をさせてしまわないか、という事を案じて拒否していたがその言葉には流石に引っ掛かるものがある。



(なるほどね…自分が勝つのは大前提って事っスか。まぁ確かにオレ、勝った事ないっスけど。)



「どうしたの、そんなに怖い?」



挑発と分かっていても、黄瀬はもう乗るしかなかった。



「…分かったっス。その代わり、春奈っちが負けたら…その時はもう、オレ達は師範代と門下生じゃないっスよ。」


ここでこの十数年間の上下関係が覆るならばむしろ黄瀬にとっても都合が良い。


そしてその申し出を春奈は快諾してくれた。


「いいよ、師範代の称号ごと涼太にあげる。それで、私は一番弟子にでもなろうかな。」



そう笑って言った直後、ピリッと張り詰めた糸のような空気が2人の間を繋ぐ。




そしてそれは、ある瞬間でプツリと切れた。




「…春奈っちぃいいぃぃ!!」



「涼太ぁああぁぁぁ!!」




互いが互いにかかって行ったまさにその時、





「…マジかよ。江戸城では女にも兵士やらせんのか?どんなにお偉い将軍様かと思えば……ただのクソヤローだな。」





「「!?」」




気だるそうな声に完全に気が抜けてしまった2人が振り返った先にいたのは、丁度今城に到着したばかりの青峰大輝だった。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ