戦国KISEKI
□第弐話
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城下町から遠く離れた江戸の外れで、とある青年が両親や村人達に見送られて今まさに、新たな門出を迎えようとしている。
「…では父上、母上。行って参ります。」
その青年の名は、黄瀬涼太といった。
「あぁ、達者でな!」
「あんなに泣いてばかりだったのに、立派になって…」
江戸の治安を守るために城の歩兵になる事を決めた彼を、両親は寂しかったがそれ以上に誇らしく思い、気持ち良く見送ってやる事にしたのである。
村人達も口々に黄瀬を鼓舞する中、1人の男が前に歩み出た。
「涼太君、」
「…先生!」
そう、この中年男性は黄瀬がまだ幼い頃からずっと通い続けた道場の師範である。
「君はうちの門下生の中でも1番の腕前だ、きっと歩兵隊でも活躍出来るだろう。存分に力を奮ってきてくれ。」
握手と共に温かい言葉を掛けられて、黄瀬は思わず涙ぐんだ。
「…っ…はい!流派の名に恥じぬよう精一杯務めを果たして参ります!!」
男がむやみに泣くんじゃない、と黄瀬の頭を軽く叩きながら男は少し表情を曇らせる。
「春奈にも見送りくらいは行ったらどうだと言ったんだが…まだ拗ねているようでね…」
春奈というのは、師範の娘で黄瀬の幼馴染であった。
「…仕方ないっス。オレが黙って城に行くの決めちゃったんだし。」
黄瀬の言う通り、春奈は彼が江戸城に行くと決めた事を父親から聞き、それ以来黄瀬とは一切口を聞いていないのだ。
「正直言うと、ちゃんと仲直りしてから出立したかったんスけど…」
黄瀬が寂しそうに呟いたその瞬間、
「…涼太っ!!」
まさに噂の人物が大きな風呂敷を担いで息を切らしながら走ってきた。
「!春奈っち……って、何スかその荷物。」
春奈は息を整えつつ、きっぱりと言った。
「私も江戸城に行く。」
「…は!?」
「門下生で1番だからって調子乗ってんじゃないわよ。私には試合でまだ1度も勝った事ないくせに。」
腰に手を当ててそう言う春奈は流石道場の娘と言うべき剣術の腕前で、黄瀬を含む全ての門下生に負けを許した事がないのだ。
その実力はこの若さで、しかも女であるにも関わらず師範代の称号を得てしまう程のものであった。
「うぅ、それはそうっスけど…でも、オレは江戸の平和を守りたくて、」
「だから私も行くって言ってるでしょ。私も城に行って歩兵隊に志願する。」
春奈は淡々とそう言ったが、師範である父が黙ってはいない。
「何を言っているんだ春奈!女であるお前が兵士になるなど…!!」
「そうっスよ!危ないっス!!」
黄瀬もそう言って止めようとしたが、春奈はわざとらしく眉を下げて笑ってみせた。
「…危ない?涼太より強い私の方が将軍様のお役に立てると思うけど。」
それを言われてしまうと、彼はもう何も言い返せなくなる。
「で、でも〜…」
春奈は続けて父親を説得しにかかった。
「お父様、この道場を継げるのは私だけよ。実践を積んで技を磨いてくるのは道場の先の事を考えるととても有意義な事でしょ?」
師範は苦渋に満ちた面持ちになる。
「…お前の言いたい事は分かる。しかし…」
「私、もう決めたの。」
春奈が真っ直ぐ父の目を見据えてそう言った瞬間、決着は付いた。
「…その顔をしている時はもう何を言っても無駄だったな、昔から。」
師範は1つ溜息を吐くと、この上なく真剣な顔付きをして黄瀬と向き合う。
「先生、まさか…」
「…涼太君、春奈を頼む。」
肩をがっしりと掴んでそんな事を言われて、黄瀬は頷かない訳にはいかなかった。
「逆よ、私が涼太を頼まれてあげるの。」
春奈は口を尖らせてそう言うと黄瀬の脇腹を小突く。
「春奈っち…本当に、本当にいいんスか?」
「あんまりウザいと置いてくから。」
「え……あぁっ、待って!!」
すたすたと先を歩く春奈を黄瀬は慌てて追い掛けた。
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