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□君の心に触れたいよ
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「好きな子ほど虐めたくなる」
小学生男子の、彼らなりに難しい恋愛事情。小学校の頃、それなりに男子にちょっかいを出されていた花子としては理解できなかった。

『ほんと訳分かんない!』
「お前の方が訳分かんねーよ!!」

虐めたくなる、というのは素直になれないことからの愛情の裏返しである。最近の彼女もきっとそうであって__
「理解できなかった」のは昔の話。今は充分過ぎるほどに解っており、そして自らが経験している。



『くっそぉぉぉ、オイコラ高橋ぃぃ』
「なんで俺なんだよ!?八つ当たりすんな!」
『だってぇぇぇどうしたらいいのかわかんないぃぃぃ』
「女子ってのも複雑なんだな・・・っつかコレ、思いっきり小学生男子だよな?思春期突入みたいな」
『私が小学生男子だって言いたいのかお前!!』
「何でそこだけ間延びしてねぇんだよ!」

隣の席の男子にちょっかいを出す。夏よりも少なくはなったが、まだ聞こえる蝉の声を耳にしながら彼女は唸っていた。

「つーかさ、好きなら言えばいいだけの話じゃん?俺には言えたんだし」
『そーゆーこと言うからモテないんだよ』
「核心付くなよ」

高橋はサッカー部である。もうグラウンドでは部活動が始まっておりランニングの声が響いていた。その様子を窓から眺めながら彼は少し笑った。

『何よ、その笑い。そいえば、高橋は好きな人いるの?』
「いるよ。あまのじゃくで素直じゃない女」
『へぇ、苦労するね』

本当に、と彼は自嘲気味に笑った。その顔の意味が分かるほど、彼女は大人ではなかったのだ。中学二年生、大人と子供の境目の年。

『この前さぁ、アイツが可愛い女の子と一緒にいるとこ見たんだよね。緑中の制服着ててさぁ・・・可愛くて頭良いとか私勝ち目ないじゃん』

ポニーテールの女子が脳裏をよぎる。彼女の会話の途中で彼は顔を真っ赤にしていた気がする。そんな顔は見たことがなかった。私の知らない彼。彼女はそれをたくさん知っているんだろう。胸が苦しくなる。

「・・・なんで、好きなの」
『え?・・・・・・とりあえず、格好良かったからかなぁ。容姿とか抜きにして、性格が。絡まれてるとき、助けてくれたんだぁ』

きっと彼は、もう覚えていないだろうけど。

『高橋は?なんでその子のこと好きになったの?』
「そいつ、好きな人いるらしくて・・・そんでその一途な感じが良かったっつか」
『やだぁ高橋、失恋決定じゃん。私も玉砕したら一緒に傷心旅行でも行くか』

縁起でもない、と彼は呟く。
それに気付かずに、彼女は書き終わった当番日誌を閉じた。窓の外から顔を引っ込めた高橋の口が言葉を紡いだ。

「なぁ、知ってるか」
『え?』
「あいつ、今日誕生日なんだってよ。__チャンスじゃん」
『で、でもプレゼントとかないし、』
「大丈夫。お前は絶対上手くいくよ、親友の俺が保証するから」

その言葉を言い切った瞬間、胸の中に何とも言えない気持ちが沸き上がってきた。教室を飛び出す彼女の姿を見送り、彼はそっと呟いた。

「親友は、いやだ」


すきだよ。ごめん。
きっときみが、あいつをおもってるより、おれはきみがすきなんだ。
でも、あいつもきっとおまえがすきだから。おれはおじゃまむしにはなりたくないから。
だから、がんばれ。






__そんな、子供の強がり。



20130909

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