夢
□嘘
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「あの子ならもう、帰っちゃったよ」
嘘だけどね。
あの子なら、委員会で第5演習室にいるよ。6時に終わるって。
知ってるけどね。言わない。
「そうか………」
そんな悲しい顔しないでよ。
私がいるじゃない。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
あの子より、私の方が貴方を想っているんだから。今貴方の目の前にいるのは、この私なんだから。
「……うん、いいよ」
やっぱりね、貴方は断らない。そういう人だもの。
人のお願いは断れない。全てを抱え込んで、それを表に出さないで、隠して。
私は、知ってるけどね。
「何かあったの?」
貴方が背負っているその荷物を、私も持ってあげたい。貴方の役に立ちたい。あの子には適わないのなら、この恋は叶わないのなら、少しでも、貴方の為になりたい。
「何もないよ」
その笑顔も、偽者なんだよね。
貴方の、本当の顔を見せて?
1人で抱え込まないで、私に、私だけに、本当の貴方を見せて?
貴方の中の大切な人に、ならせて?
それも、叶わないのなら───
───今この瞬間だけでも、貴方の側にいさせてください。
end.