□あの“笑顔”を探して
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私には、好きな人がいた。その人は、とてもバスケが上手で、いつも楽しそうに、バスケをしていた。


中学校のとき、たまたま自分の中学のバスケの試合を見た。そのチームにいた、彼。彼はとてもバスケが上手だった。どうなっているのか全然分からない。ましてやバスケ未経験者の私には分かるはずもないのだけれど。でも、とても綺麗にシュートが決まる。彼のシュートがとても綺麗なこと、は私にも分かる。どんな態勢からでもシュートが決まる。彼の投げたボールが、ネットをくぐる。歓声がどっとあがる。どこからきたのか分からないパスをとり、ボールが弧を描く。ネットをくぐる音。歓声がまたあがる。
その繰り返し。
いつしか私も一緒に声をあげていた。その、彼のプレーに、なにより、プレーをしている彼の『笑顔』に、
ーーー恋をした。
名前さえ分からない彼だけれど、私はその人に、恋をしたのだ。

それからは、毎日バスケ部の練習を体育館の上から眺めていた。それが日課になっていた。髪が青くて、笑顔の素敵な彼は『青峰大輝』というらしい。

いつの日からか、髪の黄色い人が入ってきた。その人は私でも知っているモデル。さすがモデル。いつもは私くらいしかいなかった体育館上も、その人目当てであろう観客が増えた。でも私の視線の先は、いつでも彼だった。ずっと彼を眺めていた。この日課は、学年が変わっても変わらない。


彼の入っているチームは『一軍』というらしい。この学校のバスケ部の中でも強いメンバーが集まっているらしい。彼についてのいろいろなことを調べた。何組なのかも分かった。『3A』らしい。でも、声はかけなかった。彼はきっと、いや絶対に私のことなんて知らない。それでいい。私の中で彼は、半ば憧れに近い存在でもあった。


彼の入っている『一群』は、彼と同様みなとても強かった。でもやっぱり、彼は飛び抜けて上手だった。……というより、上手になったのだと思う。私が恋に落ちたあの時よりも、格段に上手になっている気がする。いつしか他のメンバーとの差も開いていった。彼の上達のスピードがとてもはやくて、チームでも浮いた存在に見える。彼がどんどん上達するのと比例するように、私の大好きな彼の『笑顔』も、次第になくなっていった。

私の大好き彼の『笑顔』。それが消えることは、とても辛いことだった。今の彼に、あの時の楽しそうにバスケをする彼は消えていた。

ーーー頭が痛い。急に私を頭痛が襲う。痛い…………っ。
気を失っていた。


気が付いた時には、白い天井、白い壁、白いベッド…………白に囲まれた謎の部屋にいた。ここは、どこだろう。お医者さんらしき人が、私に近づき話しかけてくる。「風菜さん?目を覚ましましたか?」風菜………?あれ?私は誰?「風菜……?」
そのお医者さんは、私が風菜で、私は階段から落ちて気を失っていたのだと言う。どうやら私は『記憶喪失』らしい。何も覚えていない。自分のこと、家族のこと、友達のこと、学校のこと………何も覚えていなくて。ただ一つ、私は『笑顔』だけ覚えていた。その『笑顔』の主が誰なのか、それは思い出せなかった。


記憶は思い出せないが、私の家族だという人や友達だという人にいろいろなことを教わり、みなが言う『帝光中学校』へとまた通い出した。


自分の教室を、友達だという人に教えてもらった。まわりには私の友達だという人がたくさんいた。ごめんね、覚えていないんだ……。その中に、私の探すあの『笑顔』はなかった。友達じゃ、なかったようだ。ではあの『笑顔』は誰なんだろう……。

学校が終わり、校内をフラフラしていた。なぜか耳に残る『3A』という教室。何かあるのかな?行ってみよう。
もしかしたら、あの『笑顔』がえるのでは……………少し期待して行ってみたが、そこにあの『笑顔』はなかった。

早くあの『笑顔』を探さないと、自分が壊れてしまいそうになる。もうそれくらいに私には、彼の『笑顔』しか残っていなかったのだ。

『笑顔』の主を思い出したくて、いろいろなところに行ってみた。必死にない記憶を辿る。ないものはないんだけど………。
………この音は?
ボールがネットをくぐる音。その音へと行くと、バスケ部が練習をしていた。バスケ……………。何か思い出せそうで、でも思い出せなくて………。


フラフラと校内を歩き回っていたら、屋上についた。疲れたな、少し休憩しよう。

その屋上には

ーーー『青峰大輝』…………?


何故かでてきたこの名前。
………でもあの『笑顔』はなくて。

彼はこちらを向く。こっちへ来るなとでも言っているのだろうか。苛立っているような、悲しんでいるような顔をしていた。


彼が、あの『笑顔』主とは信じられなかった。またあの『笑顔』を見たい。そうしないと壊れてしまう……。


私は今日も『笑顔』を探す。
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