短編夢2

□marking
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『ちょっ、何これ!?』



朝、鏡をみて叫ぶ。


首筋の、自分では見えない場所にはっきりと……


赤い、跡。



【marking】





「ん……おはよ…」



後からのそのそと起きて来た彼氏に一喝。



『こんなトコにつけて……どーゆうつもり!?』



「……は?どーゆうつもりもなにも、………

そーゆうつもり」



まだ寝ぼけ眼の彼の頭を軽く叩いて。
このままじゃ話にならないと思い私はお湯を沸かしに台所へ向かった。




もう一度、鏡で確認。

……濃い…



隠しきれるわけない。髪をどう下ろしても、隠れない位置。



お湯の沸騰と共に、私の怒りもふつふつと溜まっていく。




沸いたお湯でお茶を淹れて、リビングのテーブルに乱雑に置いた。




「怒ってんの?」



そんなことを聞いて来た彼に、当たり前じゃない、と視線を返して。


お茶を一口飲んでから問い質すように言った。



『見えるところには付けないって、約束したよね?』



彼は少し眉をしかめる。






「あぁ、そうだったかも」



曖昧な返事に、私はイライラして。



『そうだったかも、じゃなくて、そうなの!


どうしたらいいの?隠せないし……』



「隠さなきゃいいだろ」



『何言ってんの?恥ずかしいんだからっ』




私と彼の争いは続く。

私たちの喧嘩は、先に言い返せなくなったほうが負け。

先に溜息をついたのは、彼のほうだった。



「……悪かった、よ。

どうしたらいい?」



空になった湯飲みをテーブルに置いて、彼は真顔で言って来た。




『どう、って……』



確かに、どうしたらと言われてもなにも思い浮かばない。



黙り込んでしまった私に、彼の唇は弧を描いていく。




「絆創膏でも貼る?」



『……バレるもん…』



「ハイネックでも着れば?」




『持ってない…』




今更どんなに怒ろうと、どうしようもないことに気付いた。




「んじゃ、こっち来て」



彼に手招きされて、テーブルの向かいへと移動した。



「俺のモン、って印なんだから…


付いててもいいじゃん」





そう言って、唇にキスを一つ。

次に、頬。瞼。おでこ。



私の髪の毛を撫でたと思ったら……



彼の顔は、首筋へ。



チクリ、チクリ。
軽い痛みが何度も走る。


やっと顔を上げた彼は、満足気に笑ってた。



「こんだけいっぱいあったら、もう逆に恥ずかしくないっしょ」



嫌な予感。
慌てて鏡を見ると、



『な……何これぇ!!』


首筋から鎖骨にかけて。
無数の赤い跡。




「お花畑♪」



『バカ!!』




ヘラヘラと笑う彼の頭をバシン、と音がする程殴って。


もしかするとハイネックの服があったかも……なんて淡い期待を抱いて帰ろうとしたとき。




「ファンデーションでも塗れば?」



と、彼の提案。


あぁ、今まで思い付かなかった。私はバックからファンデーションを取り出して厚めに塗ってみた。



「あ、全然分かんねーじゃん」



ニヤリ、と笑う彼につられて、私も口元が緩んでしまった。



「ねぇ、俺もつけて」


彼が自分の首筋を指差すから。







私は少し背伸びして、太くて綺麗な彼の首筋に吸い寄せられるようにくちづけた。



「おそろい」



鏡を見て笑う彼は、やっぱり愛しくて。



私は自分の首筋を少しこすって、一つだけキスマークを露わにさせた。




それは、彼と同じ位置。




END



2008・11・1

 

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