短編夢2
□rhythm
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「悪い!ソレとって!」
頭上から聞こえた声。
私の足元には、棒が落ちていた。
……棒?
【rhythm】
ソレをわざわざ音楽室まで届けに行った私。
どうせ暇だったし、別にいい。
待っていたのは男の、先輩。
私が拾ったのと同じもう一本の棒を持っていた。
「ゴメンゴメン、落としちゃって」
『…吹奏楽部なんですか?』
さっきから手の中にある"棒"ってのは、ドラムのスティック。
音楽室でドラムの練習なんて、吹奏楽部しかいないでしょ?
「ううん、俺吹部じゃないよ。ぜーんぜんカンケーない」
聞けば、ただ音楽室に入り浸っているだけだと言う。
入部しちゃえばいいじゃないですか、って言ったら、
「やだ。俺は決められたリズムなんか嫌いなの。もっと自由に、俺らしく…
自分のリズムを刻みたい」
真剣な顔で言った先輩は、凄く格好いい。
その日から、暇な私は放課後、音楽室に行くようになった。
コンクール間近の吹奏楽部は、ドラムセットを使わない。
どうやら部長と友達らしいその先輩は、一応許可をとって準備室で練習をしている。
とはいえ、他の部員たちには睨まれるけど。
そんなのちっとも気にしないで、タカタカタカタカ。
"自分のリズム"、刻んでる。
そのときの先輩、すっごく笑顔で楽しそう。
吹奏楽部の顧問が来るまでの、30分程度。音楽準備室は先輩の空間。
心地よいリズムに、酔ってしまいそう。
ううん、もう酔ってるの。私、先輩に。先輩のことが──…
「好きだな、俺…お前のこと」
『へっ!?』
いきなりとんでもないことを言われ、思わずよろけそうになる。
すす好き、好きって……!
「うん、いっつも楽しそうに俺のドラム聴いてくれるし。
そーゆう人凄く好き」
って、拍子抜け。
でも、そんなところも好きだなぁ……
あ、好き、って。
先輩のこと好きだって、自覚してしまった。