短編夢3

□Coward Santa Claus
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ふと、テーブルの上に置いた携帯を見る。





サブディスプレイに表示された、【23:56】という時刻。





もうすぐ午前零時……





君のことを、思い出した。





【Coward Santa Claus】





「別れよ、っかぁ……」





三年前のクリスマス。
当たり前のように二人過ごしていた時間に、君の言葉が終止符を打った。





『は?


なに、言ってんの…』



いつもの冗談。
そう思って、笑って返した。




「冗談、じゃあないよ…。



別れよ」




何にも考えられなくなった。




今の今まで美味しい料理食って、酒飲んで。




程よく酔ったところで、ベッドへ―…





そうだ、酔ってんだ。




コイツ、酔ってそんな変なこと…





『飲み過ぎたか?



寝よっか、今日は』




でも、コイツが飲んだのは、まだ缶チュー一本。




「別れたいの」





その一言が、俺の時間を止めた。





『な………マジ、何言ってんだよ』







背中から嫌な汗が流れる。




何となく体が震えて、この部屋、こんなに寒かったかな、と思う。




「私ね、好きな人出来ちゃったの。



その人、すっごくお金持ちなんだよ、どこかの企業の……」




『おい!』





嘘だ。嘘、だろ?




『なんで、なんで……


俺じゃだめなんだよ!』




ついつい声を張り上げてしまう俺。
そんな俺に、返ってきた言葉は…





「……だって、夢ばっかり追いかけて……



家事だってなんだって自分で何もしようとしない。




私、お母さんじゃないんだよ!?



もう疲れちゃったよ……」


悲しそうな顔で、言った君。





何それ。
まるで俺が、迷惑だったみたいな言い方。




『は……



お前、夢追いかける俺が好きだ、って言ったじゃんか』






「……ひとりのほうが、いいんだよ。



本当に夢を追うなら、ひとりのほうが…」





何なの?




今、何が起こってるの?





俺、ガキだから。
答えなんか出せないよ……






それから言い争って、でも結局、君が出した答えは、別れ。





「ねぇ?



もし私が何年経っても幸せになれなかったら、



…迎えにきてね?」




玄関で、振り向きざまに笑いながら言った君。




"何、勝手なこと言ってんだよ…"




声には出さず、睨んでやれば、君は笑顔をやめて携帯を取り出す。




そして俺の名前を俺の目の前で、アドレス帳から消した。




あ、これで本当に、最後なんだ。




そう思ったら鼻の奥がツン、ときて。




気を緩めば出てきそうな涙と、ポケットに入れてた、渡すつもりだった安いプレゼントを隠した。





去年のクリスマスは、喜んでくれたよな。




悪いけど今年は、俺は君のサンタにはなれそうにないー…





「……好きでも、



…一緒にいれないときだってあるんだよ」





最後の最後。

君が呟いた言葉は微かに俺の耳に届いた。




"好きでも、一緒にいれない"





君は確かにそう言った。




一瞬見えた君は、泣いていたのに。






弱虫な俺は、追いかけることが出来なかった。







…あれから三年。

俺は、夢を掴んだ。




ガキの俺は少しだけ大人になって、あのときの君の言葉の意味も分かるようになったよ。



ゴメンな。
いっぱい迷惑かけてた。



金が無かった俺を助けてくれたのは、誰だ?


一人じゃ何も出来ない俺の世話をやいてくれたのは、誰だ?





君しか、いなかったのに。



今の俺には金もそれなりにあって、もう交際を親に反対されるようなこともないと思う。



一人でも生きていけるけど、やっぱりひとりじゃ寂しい。




俺はいまだに消せない君の番号に電話をかけて……




コール音を聴いて、切った。



まさかまだ番号変わってないなんて、思わなかった。




"今でも、君を愛してる"




たったそれだけが伝えられない俺は、まるで弱虫なサンタクロース。



好きだよ、好きだよ、好きだよ。




時計が【0:00】を示す。



今年も俺は、一人でいます。




三度目の…



("Merry Christmas"は伝わらない)



END


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