短編夢3

□aishiteru
1ページ/1ページ




声に、出さないまま。



私は叫んだ―…



【aishiteru】





ひとりぼっちの、日曜の夜。



ぽっかり空いたスペース、貴方がいた場所。
私一人じゃ、広すぎるベッド。




「じゃあ、ね」




そう言って貴方は部屋を出て行く。



『はい……』



いつも私はそれを見ていることしかできない。
貴方が帰るべきところに帰って行くのを……

引き止め、られずに。




「好きだよ」



『んっ……はぁ……』



そのキスは、私だけのものじゃないの。



熱い熱い、くちづけ。


私はその間、ずっと目を閉じたまま。




明日が来るのが怖くて、私と貴方の未来を見たくなくて。




「愛してるよ」




言葉なんて、薄っぺらい。
いくら言葉で気持ちを伝えても、本心なんてその人にしか分からないのに。




だけど………




『あっ、ぁ………やぁ……

んっ、あっ』




「……好き、愛してるっ……」




貴方に、抱き締められて。

私の心はドキドキ、ときめく。






あ、馬鹿だな、私。




まだ信じてるんだ。貴方のこと。





『恋、って……
なんなのかなぁ…』




ふとした疑問。
そんなのが貴方といると浮かんで来る。




「ん?


誰かを好き、ってことだろ?



んで、誰も傷つけない恋が、"愛"」





だったら、私たちの関係は、なに?




私の一方的な、恋?





貴方には、愛すべき人が何人いる?




奥さん、可愛い子供たち……

そのなかに、私は入れてる?




私のこの想いは、罪なのかなぁ……





『はあっ……はぁ……』



「っ………



気持ち良かったよ、」



出て行かないで。
おいて、行かないで





「やば、もうこんな時間。



今日は帰るわ。
ゴメンね、じゃね」





違う、違うよ。



せめて「おやすみ」って、言ってよ




声にならない思い。
私はまた、引き止めることはできない。





ただ、伸ばした手は空を切る―…








…貴方と出会った時。


貴方の隣りには、もう誰かがいた。





貴方の大きな手と繋ぐ、小さな手があった。



いつも笑顔、優しく笑う顔。




どんなときも奥さんを愛してるんだと、照れくさそうに言った。






そんな、"いいお父さん"。


私もいつかはそんな家庭が欲しいと、あこがれていた。




でもいつからか、私が本当に欲しかったものは……




貴方という、一人の男性。





決して合わない私たちの歩幅。




いくら身体を重ねても、



重ならない、二人の心。




「ただいま!」





『えっ……今日、来れない、って…



それに、"ただいま"、だなんて』




渡していた合鍵で、突然入って来た貴方。




「ん、


会いたくなった、からさ。



つぅか!"ただいま"って言っちゃダメなのかよ?」




私が驚きながらも首を振ると、彼は勢いよく抱き付いてきた。




『えっ、ちょっ……』



「………」




さっきまで笑っていた彼は、たちまち無言になって私の肩に顔をうめる。





…これは、家でなにかあったんだな……




結局私は、貴方の家庭の次。




たまにある家庭への不満の、はけ口。





悲しくなったけど、彼の背に腕を回して。





「……今日は…帰らないから……」




そう小さい声で言って、貴方は奥さんからもらったのだという時計を腕から外して、微笑んだ。




「時間とか、気にしたくないから。



お前だけの、俺でいさせて」





その一言で私と彼はベッドへなだれ込む。




貴方が左手の指輪を外し忘れていたことには、このときは気付いていなかったけど。





「っ………弱いな……俺…」





情事後、小さくそう呟いたのを、私は聞き逃さなかった。





本当、ずるい人。
明日になれば、どうせ家に帰るくせに。




…どれくらい、貴方のこと好きだと思えば、この気持ちを"愛"と呼べる?
言葉に出すのも、簡単よ?



日本語なら、『愛してる』




英語で、『I love you』





スペイン語ならば『Te Quiero』






イタリア語で……




     「Ti Amo」



(終止符は、私の手で)




END



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ