御題

□・その一言が余計です(志摩出)
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『そのひとことが余計です』


「出雲ちゃんー!!!」

毎度ながら志摩廉造という男に
軽々しく声をかけられて私が
冷たくあしらい玉砕する風景は
誰も望まない塾の名物化として
自然と日常に溶け込んでいた。

塾に通うに最大の壁此処にあり。


「出雲ちゃんほんまかわえーな…メアド交換しましょーや!
あ、デートでもええですよ!
なんなら両方選んでくれても」

「あー、もううざいうざい!!」


その日常に慣れない私はついに
音を上げ本音を漏らす。いつも
と少し違う光景に皆が私に視線
を向けて目を丸くしていた。


「出雲…ちゃん…?」

少々怖気付いて申し訳程度の
遠慮で私を呼びかける隣の男に
鬼の形相できつく睨み付けて
怒りに任せ机を思い切り叩く
とバン、と鈍い音を鳴らす。

それを気に静まり返った教室
に重い空気が流れる。周りに
危害を加えた事に罪悪感は
あったが、勿論、私だから
そっぽを向いてふん、と鼻
を鳴らす事しか出来なかった。

そんな沈黙を破ったのは
勝呂竜士の第一声だった。


「まぁ、そりゃ志摩が悪いわ」
「そうですねぇ…」

「坊…や、子猫さんまで?!」


空気を読んでか、同情してか、
ただ本当に私は正論だったのか
勝呂竜士に続き三輪子猫丸も
うんうん、と頷いて言う。
…それで話が終われば良かった
ものの残念ながら勝呂竜士の
余計な一言が私に飛んで来た。


「せやけど、神木かてちぃとは
志摩の気持ちに答えてやったら
どうやねん。メアド交換する
くらい別になんてことあらへん
し、ええんちゃうんか?」

「坊…ええ人や…」


志摩が目を輝かせて見ると
少し照れたように頭を掻く。
結局、私が悪者扱いですか、
嘘か真かさておき好意を寄せて
近付く相手を虫けら如くに扱う
私は確かに何処から見ても悪者
だろう。私は溜息を吐く。


「あのねぇ…私はもう大分迷惑
してるの。こんな軽々しい奴を
前にして用心深くなるのは当然
でしょ。その上、そのしつこさ
に四六時中に付き合わされる
私の身にもなってから、メアド
交換の要求について考えても
みないよ。」


「まぁ…」

「え、坊?!」


流石に言い返す言葉もなく
納得せざるえないようだ。
志摩はしょげた顔をする。
そんな中途半端な意見しか
用意出来てないなら最初から
反論するな。アンタ達、志摩
の幼馴染ならコイツとメアド
交換しても「私の生活に支障が
出ない程度だから大丈夫」と
いう保証書くらい付けなさい。
…なんて考えていても口に
出さないのは…


「なら、お預けね」


罪悪感もないわけではない。
しかし、押しに負けてなあな
あの関係になる方が私は余程
良くないと思う。せめてコイツ
の素性を知ってから私は向き
合いたいと…ちょっとくらい
思う…。すると、志摩は私の
その言葉にぴくりと耳を立て
る。まるで犬の耳みたいに。


「お預け?!それて、いつかは
交換してくれるて事やんな!!」

しまった、言葉を間違えた…
わけじゃないんだけど…口に
するのは間違えた。志摩は
先程までしょげていた顔が嘘の
よーに嬉しそうに声を張る。
そして、私も彼の甚だしい
(…くはないけど)期待を
取り消すような怒声を上げる。
それを見たみんなは「何だ、
いつも通りか」と次々に呟く。


「違うわよ!言葉を間違えたの!
(今は)アンタなんかと絶対交換
なんかしないわよ!」

「これからも出雲ちゃんのメアド聞いて…あー、デートのお誘い
もお忘れなくするなー!」

「聞きなさいよ!」

「…お前の不屈の精神だけは
たまに見習いたい思うわ…」


【おわり】


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