青エク

□甘えたい(志摩出)
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「出雲ちゃんー!!!」

それは奥村くんと和解(?)した
食事の後。部屋への帰り道、
偶然にも廊下で出雲ちゃんと
鉢合わせした。いつものよう
声をかけようとした…んやけど
どうも、様子が可笑しかった。
何処か覚束ない足取りで
行ったり来たりの繰り返し。
顔は俯いて背中も曲がって
何よりいつもの覇気がない。


「あ…っ!!!!!」


考える間も与えてくれんと、
突然彼女は前のめりに倒れだす
もんやから、俺は青い顔して
僅かな距離を全力疾走で駆けて
受け止める事に成功した。
残念…いや、幸いな事にお互い
倒れる事なく抱き合うような形
で受け止めていた。(まぁこれは
これでええな!)

そういや、初めて出雲ちゃんに
触れるかもしれへん。その態度
や限度とは裏腹に華奢な身体を
触れて思う。その目の前の現状
を喜びより先に来る違和感。
改めて出雲ちゃんを見ると
彼女は俺の胸で顔をうずめて
両手を置いたまま反応なし。

今頃、俺は理性が旅に出て
本性むきだし。出雲ちゃんは
やかん沸騰したかくらい顔を
赤くさせてそんな俺を突き
飛ばす。くらいのシチュエーションが
あるはずやけど音沙汰無し。

すると、突拍子もなく猫撫で声
で俺に御礼を言う声がした。


「あ…志摩…有難う…」


誰?辺りをキョロキョロ見回す
けど誰もおらん。人影どころか
声も…足音さえ聞こえへん。
まさかと思い視線を下に。
心持ちくらいの力で俺の服を
両手で握られ、顔をほんのり
赤くさせて上目遣いで俺を見る
出雲ちゃんが現実におった。
また、同じようなかいらし声で
小さく呟く。


「あの…いつも、酷い事言って
るけど…その…本当はね、話か
けてくれて…う…嬉しいから…」

…何や何や何や!!!!
え、え、かいらしすぎるわ!!
心の声が漏れないよう片手で
強く口を塞ぐ。直視出来ずに
勢いよく顔を反らしてしまう。
顔だけでなく耳まで熱くなり、
おそらくやかん沸騰したか
くらい顔も耳も赤らめてる俺が
本気で照れて余裕を失っている
様子は誰にでも窺えると思う。
…コンビニにで女性店員やろう
とエロ本堂々買える俺がなんで
坊みたいな初な反応せなあかん
ねん…。せやせや、落ち着け。
この機会やったら、チューする
くらいの進展まで持ってける。
一息深呼吸して顔を冷まし、
顔を出雲ちゃんに向ける。


「…せやったら、これからも
遠慮なしにぎょーさん話し
かけてもええ?」


ちゃいますやん…お前それは
ちょっとええ加減にし…


「9割はうざいから少し控えて…」

「ええええ?!出雲ちゃんその
変わりようはなんですの!!
…しかもそない真剣な顔で…」

出雲ちゃんの一言がようやく
我に返る。すると、何処か酒
臭いニオイがする。
覚束ない足取り。
ほんのり赤い顔。
不自然な言動。
確か弁当についてたお茶と
間違いで酒みたいなん一缶。


「出雲ちゃん酔うとる?」

「?」


眉を寄せ、口を尖らし、だけど
優しく緩い表情で首を傾げる。
何や、この猫ほんま飼いたい。

流石に酔うとる相手を口説く程
根性腐ってないし、惜しいけど
出雲ちゃんの肩に両手を置いて
身体から離す。


「出雲ちゃん部屋何処ですの?
送っていきますわ。」


いつものにへら顔でそう言って
彼女の背中を軽く押しておうち
へ返した。


【おわり】

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