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□陽炎
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8月15日の午後12時半くらいのこと、天気が良い。

病気になりそうなほど眩しい日差しの中することもないから君と駄弁っていた。



「あっちぃー…」

「溶ける〜…溶けるよ土門〜…」

「その程度で人が溶けてたまるか」

「うー…でもまあ…」



―――夏は嫌いだなあ」

猫を撫でながら、君はふてぶてしくつぶやいた。

「なーんで?」

「なんでだろうなあ…、こう、ジメジメとしたのが嫌いってゆーか」

「それは日本だけだろ、アメリカはもっと乾燥してるし」

「そうだけどさあ……あっ」

あぁ、逃げ出した猫の後を追いかけて飛び込んでしまったのは

赤に変わった


信号機


「一之瀬っ!!!」


バッと通ったトラックが君を轢きずって泣き叫ぶ

血飛沫の色君の香りと混ざり合ってむせ返った。

「う………わあああああああ!!!」

嘘みたいな陽炎が「嘘じゃないぞ」って嗤ってる

夏の水色かき回すような蝉の音に全て眩んだ




「………」

目を覚ました時計の針が鳴り響くベッドで今は何時?

「……12時」

8月14日の午前12時過ぎ位を指す

やけに煩い蝉の声覚えていた


でもさあ、少し不思議だなあ

「どうしたの、土門?」

「あ、いや。なんでもない」

同じ公園で昨日見た夢を思い出した

「なあ一之瀬」

「ん?」


「もう今日は帰ろうか」


「え?いいけどなんで?」

「いいから」


道に抜けた時周りの人は皆上を見上げ口を開けていた

「なんだ、どうし」

ぐちゃっ

落下してきた鉄柱が君を貫いて突き刺さる

劈く悲鳴と風鈴の音が木々の隙間で空回り


ワザとらしい陽炎が「夢じゃないぞ」って嗤ってる

「いちの、せ」

眩む視界に君の横顔笑ってるような気がした
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