都忘れと菖蒲
□未定
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促されるかのように瞬きをすれば零れる雫。それを自然な動作ですくいとる彼の指先。
正面に立つ彼を見上げればいつもと変わらない、でもどこか柔らかな瞳の彼と交る視線。
『…お前は泣いてばかりだな』
次いで放たれたその言葉に胸が熱くなる。
「何でここにいるの?」私がそう尋ねる前に、私の心内が分かったのか彼は口を開いた。
『……灯りだ』
私の部屋だけに灯りが付いていたのだ。嵐に騒がしい外と対照的に寝静まる真っ暗な屋敷の中、この部屋だけに灯る蝋燭。
私を心配して見に来てくれたのだろう。
「…ありがと…ね」
私がそう言うと、彼は襖のすぐ隣の壁を背に片膝を立てて座った。そして、立ったままの私に横に来るよう目配せをした。
殺生丸の隣にちょこんと腰を下ろすと彼の右腕が私の右肩を捉え、抱き寄せられるかのようにその距離はさらに縮まった。
誘われるがままに彼の右肩に流れるフワフワなそれに体を預ける。そこから伝わる心地の良い体温に強張っていた体は自然と弛緩していった。