都忘れと菖蒲
□未定
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ゴロゴロゴロ…───ドーンッ
その地が震える程の凄まじい音に私の肩はビクリと大きく跳ねた。
畳のイグサのほのかな香りに包まれていても眠ることのできない私は、その上に敷かれた布団に腰を下ろしていた。
「(…眠れない)」
眠たいのに眠れない。こんな調子で朝を迎えてしまったら明日は散々な私を屋敷のみんなに見せることになる。
「(…うぅ…そんなのだめだよー…)」
でも恐いものは恐いのだ。涙が滲むがグッと堪えて我慢する。
「(…りんちゃんが大丈夫なのに…、私が雷恐いなんて恥ずかしくて誰の所にも行けないし…)」
それにこんな夜中だ、寝ているりんちゃんや邪見を起こしてしまうと思うと申し訳なくてそんな真似はできない。ここはやっぱり一人で我慢するしかな───…
心を決めようとしたその刹那、ドーンッと一際大きな雷鳴に、自らの腕に抱くその肩が再度大きく跳ねると同時に目尻から一筋の涙が零れた。
『……弥生』
突如、襖障子の向こうに揺れる人影が移り、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「………せっしょう、まる…?」
そうだ。とそのよく知る深く綺麗な声が答えると、私は寝巻姿のままその襖に手を掛けた。
『………』
部屋に通すと無言で私を見つめる殺生丸。その視線を追えば、今自分が寝巻一枚という何とも見苦しい姿であることに気がついた。
殺生丸、基好きな人にこんな姿を見られ、恥ずかしさのあまりカァーと頬が赤く染まる。
「…あ、ご、ごめんなさいっ…今着替えるから少し外で待っ───…」
私のその言葉の先を遮るかのように塞がれた唇。触れるだけ、重ねるだけの優しいそれ。
あまりに突然のことに瞬きをすることも忘れ、驚き固まる私の瞳は彼の綺麗すぎるその顔だけを映す。
スっと彼の顔が離れても尚、瞬き一つしない私に彼の指先は顎先から涙の跡を伝うように上って行き、雫の残る目尻にまで辿り着く。