都忘れと菖蒲
□都忘れと菖蒲
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殺生丸と邪見、りんちゃん、そして阿吽が奈落を倒すべくこの屋敷を出てから早くも十五日が経った。
殺生丸たちなら大丈夫。絶対に奈落を倒して帰ってくる。この十五日間、ため息ばかりの自分にそう言い聞かせる度に、一行の無事を祈ることしかできない自分の無力さを痛感しては涙が滲んだ。
「………はぁ…」
そして今日もまた、父と母のお墓に備えようと花を採りに屋敷を出た所で零れたため息。
殺生丸は私が邪魔だからここに残したのではない。それは分かっている、…けど──…。
『お前は私が守る』そう言われたあの日、ついて行くと言って聞かない私を、紡がれたその言葉といつも以上に鋭い瞳で静した殺生丸。
『危険だと分かっている場所におまえを連れてなど行けぬ』そんな台詞の最後に見せた、真剣な表情の中の口元の微かな笑みと優しい瞳は私の見間違えではないはず。
でなければ私は今ここにいない。屋敷を飛び出して殺生丸の後を追っていただろう。
「……早く帰って来てほしいな…」
少し歩いて開けたそこに広がる花畑のような美しい空間。花たちが咲き乱れるそこに膝をつき、目に留まった一輪の白い花に手を伸ばした。
『都忘れ≠手に取るとは、そなたはそんなにも悲しんでおるのか』
唐突にかけられたその声に後ろを振り返ると、そこには殺生丸の母が居た。
「……お母様…、」
どうしてこちらに、とは彼女の口が再度開いたため言わせてもらえなかった。
『私の大切な弥生を悲しませるとは、許しがたい息子だな』
残忍なやつじゃ。というお母様の私を気遣うその言葉に、心配をかけてしまったことを察し笑顔で立ち上がり首を振った。
「殺生丸は…優しいです。言葉は少ないし…表情もあんまり変わらないし、何を考えているのか分からないときもあるけど…、」
そこでひと呼吸置いて、
「でも、彼の優しさは伝わってるんです。ちゃんと私にも…邪見やりんちゃんや阿吽にも…」
そう言った。