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□お母さん
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「もうすぐ…もうすぐやんね。」


栗色の髪の毛をした女性は

自分のお腹を愛しそうに

見ながら、撫でている。


「うちの大切な人の大切な子供が生まれるんよ?」


「そうだな…黄名子。」


黄名子は嬉しそうにほほ笑む。

アスレイは無理やり笑顔を作った。


「君と私の子だ、きっと可愛いに決まっている。」


「そうやんね、うちもお母さんになれるやんね。」


「黄名子…頑張れ。」


「当たり前だよ、うち、頑張るよ。」


アスレイはそれだけ言って病室から出ていった。

頬には涙が伝っている。


「その子を産めば、君を失ってしまうかもしれない…ごめんよ。」







〜〜〜〜〜〜〜〜〜







「うち、お母さんになれるかな。」


一人不安げに語る。


「ううん、そんなことより、この子を守らなきゃ、お母さんにはなれないやんね。」


その眼には、嬉しさと悲しさが詰まっていた。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜




私たちの子供を産んで、

黄名子は死んでしまった。


「そんなことは、わかっていたのにな。」


「けれど、悲しみは、消えないのだな。」


アスレイは一人泣いていた。

黄名子がいた病室の戸棚から、

一通の手紙があった。


裏を見れば、”アスレイへ“と

書かれている。




アスレイへ


うちとアスレイの、

可愛い子供は生まれたよね。

うち、お母さんになれるやんね。

幸せな家庭を作って、

あなたと暮らしていけるのは

幸せに感じる。


うちがいなくなっても、

私たちの子供を守ってね。

約束…やんね。


そして、うち、考えたんよ?

アスレイとうちの子供の名前。

びっくりするやんね!きっと。


フェイ・ルーン


あなたの子供だから、

似合うと思うやんね。


きっと優しい子になる。

それは生まれる前からわかるやんね。


だって、貴方との子供だから。


あと、これはフェイに伝えてね。

きっとあなたは、この先

酷いことや、一人で生きていくかもしれない。

でもね、

人は温かいやんね。

君は、一人じゃないんよ?

隣に君の守りたい人がいるやんね。

だから、優しくなってね。




アスレイ、ありがとう。


黄名子





「私は、君を守れなかった…。」


アスレイは手紙を読み終えるとすぐに子供の元へと走った。







「いいか、君はフェイだ。良い名前だろう?」


「私の大切な人がつけたんだ。」


「君は幸せ者だな。」



アスレイは涙ぐみながら、自分と黄名子の子供に言った。





END

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