袂雀作品書庫
□狂愛
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「……お姉様。」
どうして、どうしてこうなってしまったのだろう。
「お姉様。」
私の周りには、従者の咲夜、親友のパチェ、魔法使いの魔理沙が見るも無惨な状態となって床に転がっている。
私自身も両脚の膝から下と翼を失い倒れ伏している。そして満身創痍の私の目の前には、最愛の妹であり、三人を殺し、私の脚と翼を吹き飛ばした張本人―――フランが立っていた。
「お姉様……。」
「っ……!」
フランはしゃがみ込み、私に向かって手を伸ばす。その瞬間、私は死を覚悟したが、フランは何を思ったのか私を優しく抱きかかえたのだ。そしてそのまま私は、フランによってフラン自身のベッドへと運ばれていく。
「…………。」
ベッドの脇へ辿り着くと、フランは私を割れ物を扱うようにベッドへ寝かし、そのまま私を跨いで押し倒したような形で覆い被さってきた。
「お姉様……。」
「……。」
「お姉様。」
「……。」
「お姉様?」
「……どう、して。」
何度も何度も私を呼ぶフランに対して、私は漸くその言葉を返すことが出来た。
その言葉を聞くとフランは首を傾げ、口を開く。
「どうして?どうしても何もお姉様が悪いのよ。
今日は大好きで大好きで愛おしいお姉様と二人きりでお話出来る日だと楽しみにしていたのに、お姉様が三匹も害虫を連れてきたんじゃない。
いらない害虫を駆除して何が悪いの?
でも一匹は兎も角、二匹はお姉様の従者と親友だったからね。私も我慢したのよ。
……それなのに、奴らは生かされている事も知らず、私のお姉様にベタベタベタベタとっ!!!」
優しげだったフランの表情が狂気に満ちていく。私は実の妹に対して"恐怖"という感情を抱いてしまった。
暫くすると落ち着いてきたのかフランの表情が元に戻っていき、また優しげな表情のフランが目の前に現れる。だけど"恐怖"という感情を消し去ることは出来なかった。
「だから駆除したの。大好きな私のお姉様を汚されるのは我慢仕切れなかったのよ。」
「そう……なの……。」
優しげな笑顔で言うフランに対して、私はこの言葉を紡ぎ出すのが精一杯だった。
何せ私が「大勢で居た方がフランも喜んで笑顔を見せてくれるだろう。」と変な気を利かさなければ、三人は死ぬ事は無かった。完全に私のミスで、三人もの命を奪ってしまったのだから。
「……でもお姉様を傷つけてしまったのは謝るわ。
ごめんなさい。」
「え、えぇ……。」
申し訳なさそうに言うフランに、私は戸惑いながらも返事を返す。先程のフランのあの表情は夢か幻なのではないかと思ってしまう。
(そういえば……。)
今まで切羽詰まっていて忘れていたが、ここまでの大事だ。普段の私の能力なら何かしらの反応を示す。なのに今回の事に関しては全く反応を示していない。
(何故……?)
私は試しにフランの"運命"を読もうと試みる。
(―――何も読めない。
……まさかっ!?)
頭に浮かび上がってこない"運命"のビジョン。私はすぐに原因を仮説した。けれどこれは当たって欲しくはない仮説。
「…………フ、フラン。」
「なぁに?お姉様。」
首を傾げ、私の言葉を待つフランは普段通りの筈なのに私は脅えている。相手は可愛い妹の筈なのに……。
「私の、能力に……な、何かした……?」
震える躯から何とか絞り出した言葉はかなり吃ってしまっていた。
フランは一度きょとんとした後、にっこりと笑って口を開く。
「何だ、そんな事。
私とお姉様は一つになる。これは運命が既に決めたことなの。それは神でさえも覆せないわ。
だからもう他のくだらない運命は読まなくていいし、読む必要も無いでしょう?
だから私が破壊したの!」
「……。」
嬉しそうに言うフランの笑顔は、私が見たことの無い、とても素敵な笑顔だった。その笑顔に私は見惚れてしまう。
(一番見たかったフランの笑顔が、こんな形で見れるなんて……。皮肉な運命ね……。)
運命を操る……いや、操れていた私が思うのも変かも知れないが、そう思わずにはいられなかった。
「お姉様、愛してる。私とお姉様はこれからも一緒。そうよね?お姉様。」
「……えぇ。」
フランのこの笑顔が見れるなら、こんな運命もいいのかも知れない。
両手を伸ばしフランの華奢な身体を抱き締めながら思う。私はフランの重い想いに応えることにした。
―――震えはいつの間にか止まっていた。