短編

□Non posso fare a meno di amarti.
2ページ/3ページ



久しぶりに見る自分の生まれた街は昔と変わらない
記憶を頼りにナマエの家まで行くが人気がない

やはり今日来て正解だった
ナマエの結婚式は今日だろう

記憶の中にある街の唯一の教会に向かう足は自然に早足になった

教会が見えてきた頃には今まで騒ぐことの無かった心臓の鼓動が激しく脈を打つ
たった1人の女に心を乱されている現状にリゾットは小さく笑った

「10年も放っておいて今更何を…」

これはもしかしたらナマエも思っているかもしれない
だが今は関係ない
彼女に会い本心を聞きたいのだ

人目をかいくぐりナマエがいるであろ教会の控え室に急いだ






















「…手紙なんて出すんじゃなかった」

シンプルな純白のドレスに身を包み椅子に項垂れる

全ては自分の親のせいだと言っても良い
いい歳なんだからと勝手に結婚相手を決められた上勝手に結婚式の日取りまで決められたのだ
あまりに早急な事で情緒不安定になり思わず届くか届かないか分からないような昔からの想い人に強がりな手紙を書いてしまった
どうせなら届かないで自分の元に戻ってきて欲しい

あと30分もすれば式が始まってしまう
憂鬱で堪らない
あまりの憂鬱に着替えも全く捗らない
シンプルなウェディングドレスを着ただけでベールもロンググローブも身に着けていないのだ
その憂鬱と戦うかのように目の前にある自分の姿を映している姿見を睨み付けた


いくら姿見を睨みつけようと現状は変わらない
何度目か分からない溜め息を吐き目を伏せる

「あぁ…結婚なんてしたくない…」

「ならしなければいい」

「よね、私もそう思うわ」

独り言に帰ってきた答えに目を閉じたまま深く頷く
聞き覚えのない声にハッとし目を開けると目の前の姿見には自分の後ろに立っている男が目に入った

あぁ私はこの男を知っている


「……リゾット…?」

「あぁ」

記憶に残っていた彼はまだあどけなさが残っていた18歳の姿
今は色気さえも醸し出す青年になっていた

椅子に座ったまま振り返れば頬を両手で包まれ鼻先が触れる距離まで顔を近付けてきた


「…リゾット」

「ナマエ」

名前を呼べば呼ぶほどナマエの目には涙が溜まる
じゃれるように額をつけたり頬擦りをしたりお互いの存在を確かめ合った
無言でじゃれあっていると不意にリゾットが口を開いた


「あの手紙は無効と取って良いな?」

思いは届かずあの強がりレターはしっかりとリゾットの手元に行ってしまった事に落ち込む

「無効よ無効。私が強がりだって知ってるでしょう?」

「あぁ」

「それにしてもリゾット…まさか来るなんて」

10年姿をくらませていた癖に手紙一枚で簡単に姿を現してくれるとは思ってもみなかったのだ


「お前を攫いに来たんだ、ナマエ」

「もし私が拒否して暴れたら?」

「その時は足を切り落としてでも攫う気だった」

「嘘ばっかり」

クスリと笑えば涙が頬を伝う
頬を伝い落ちれば真っ白なドレスに染みを作った


「10年…待たせたな」

あの約束を果たしに来た

そう言うとナマエの後頭部に手を回し深く口付けた
拒否する理由もないナマエはその行動を受け入れる

名残惜しそうに唇を離せば頬を赤らめ見上げてくるナマエが視界いっぱいに入った
思わず顔を綻ばせ頬を撫でた






「俺と結婚しようナマエ」

「10年も待たせたんだから幸せにしてくれるんでしょう?」

「善処しよう」

自然と引かれ合うようにまた口付けを交わした




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ