春風に葉桜が揺れる
そよぐ風に乗せられて少し離れた場所に座る承太郎の煙草の煙が香ってきた
「体育って必要だと思う?」
「俺に聞くな」
「ん、ごめん」
体育の時間は決まって承太郎と共に屋上にサボりに来ていた
自販機で買った紙パックの紅茶にストローを差し口を付ける
口の中に広がる紅茶の味と鼻を擽る煙草の匂い
一口吸い込んだ紅茶を飲み下し煙草を楽しむ承太郎に目を向けた
「煙草って美味しいの?」
なまえの疑問に承太郎は手に持っていた煙草の煙を見つめる
「さぁな…」
そう呟きまた煙草をくわえる
深く吸い込み肺に煙を溜め紫煙を吐き出す
なまえに視線を合わせれば相変わらず承太郎の手に持っている煙草に目が行っている
煙草となまえを見比べた
少しの間の沈黙の後承太郎はおもむろに手に持っている煙草を差し出した
「…吸うか」
「いいの?」
「一口だけな」
立ち上がり承太郎の傍に駆け寄り横に座ると差し出された煙草を受け取る
「どうすれば良いの?」
「くわえて吸い込め、一気に深く吸うなよ」
「ん」
言われた通りにくわえ吸い込むと何とも言えない味が口に広がり肺が圧迫されるような感覚に陥り目の前がクラクラとした
「…ッ…!…気持ち…わる…っ」
噎せ込み涙目になるなまえの手から承太郎は煙草を奪い取り自分の口にくわえた
「もう吸いたいなんて思うな」
なまえの頭を軽く小突く
「まさか…こんなに不味いなんて…っ…頭もクラクラするし…気持ち悪い…」
「ヤニクラ起こしてんだろ、寝とけ」
腕を軽く引かれると承太郎の方へ簡単に倒れる
気持ち悪いと唸るなまえの隣で承太郎は小さく笑った
暫く承太郎の横に丸くなっていると大分落ち着いてきたのか一切喋らなかったなまえが口を開いた
「私は何も知らないから本を沢山読み色々体験して世界を知らなくてはならないの。゙お前は私だ、恥をかかせるな゙といつも言われていた」
「…父親か」
小さく頷く
横たわったまま自分の髪を撫でなまえは小さく笑う
「色々体験しなきゃいけないって言っても煙草はもう遠慮したいわね」
「あぁ…もうやめとけ」
頭に大きい手が乗る
撫でるでもなくただ頭にそっと置かれた手になまえは安心感を覚えた