ごちゃまぜ夢短編

□飛べない、飛ばない
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※進撃の巨人のパロディ。公式ファンブックが欲しいこのごろ。



 今の調査兵団の団長がエルヴィン団長になった頃から私は車椅子の生活がはじめていた。女にしては身長が高かったから、よく同期のリヴァイのことをチビ扱いしていたことが懐かしまれるくらい、車椅子の目線の高さは低かった。

壁の外へ調査に行ったのがいいが、立体起動装置の片方のワイヤが壊れ、空中でバランスを崩してしまったのが運の尽きだった。巨人を誘い込んだ木々の間で、片方だけになったワイヤによって木の周りを一周して巨人の口に入ってしまった。

「ジーザスっ」

よりによって、いや、運よく奇行種で素早く口を閉じてくれたお蔭で体を丸呑みされず、足だけ食われた。

「くそ巨人、一本ぐらいくれてやるよ」

左足を犠牲にして、大腿部から下を失って木の上にワイヤーを巻き上げて乗る。
辺りを見回せば仲間がちらほら、まだ帰る望みがあった。
止血をして、更に辺りを見回す。錯乱状態にならずに冷静な対処方法を思いついた私は冷酷だろうか。

巨人がいない場所を見計らって、下半身だけになって倒れている仲間のもとへ。また、ワイヤを巻き上げて、死体を木の上にあげる。
私の足を食べた巨人を倒したリヴァイが私を見て、口を開いたけど直ぐに口を閉じた。

「幽霊みた顔をすんじゃねえ」

返事はなく、次の巨人を殺しにかかったリヴァイ。

仲間の遺品ではなく、装備を回収するのは嫌だったがまあ、仕方がない。
立体起動装置を付け替えて、巨人を確認する。

エースが3体の巨人に囲まれているのを見た。奇行種はいない。
そちらへワイヤを使って他の2体より離れている1体の後ろの首に攻撃を仕掛ける。

「アキラ?」

「あん?」

目を丸くして私を見る。

「幽霊みた顔すんじゃねえ」

にやっと笑ってみたが、いつもの爽やかな笑顔は返ってこなかった。
やや、目を細めて訓練で言われてないアクロバットなことをはじめやがった。
片方のワイヤは木に、もう片方のワイヤを巨人の首に固定して、片方の巨人の首を狩りにかかった。動き標的にワイヤを固定してどうする?ああ、エースはそのまま遠心力に引っ張られた巨人が引き倒される前に巨人を1体倒した。

「苛立つなよ、エース」

これが人間なら、エースはワイヤで首を飛ばそうとしたのだろう。

「怪我人は、上で見学しててよ。全く、アキラは足の先に神経ないんじゃないの?」

「ブラックジョークかよ、ひでえ」


……その時の調査で私が配置されていたグループで生き残ったのは後に人類最強と言われるリヴァイと私とエース。
五体満足なのはそのうちの2人だけで、私はエースとリヴァイに交代で担がれながら壁の内側へ戻ってきた。

もう2度と壁の外へ行くことはないだろう。

「いやいや、アキラならきっと片足だけでも巨人を倒せるって」

「ドSか。前からわかっていたがお前はドSか」

入院している時に見舞いに来た男2人に顔をしかめた。よりによって神様は可愛らしい女の子でも、優しい男でもなく私と腹黒と潔癖症を生き残らせたようですまーる。

「そうだ。もう巨人を倒すことなんてできねえ。精々これから身売りして生きていけ」

「よーしわかった。リヴァイ、お前の足を貰って巨人倒しに行くわ」

「あはは、リヴァイ君のとアキラのじゃあ長さが違いすぎ……あ、両方貰えばいいんじゃない?短足として生まれ変わってきたら?」

俺、今から移植出来る医師を探してくるよ。とエースが笑顔でのたまったときに、私とリヴァイは心の中の満場一致で話題をやめることにした。
ブラックジョークにしとけよ、と頭を抱えたくなる。

「……調査兵団に戻るのは俺だけか、結局。俺は戻るぜ」

「いや、エースもついでに連れて戻ってよ。この迷子、一人で戻れると思うかぁ?」

「おい、言っていないのか」

私は退院と同時に退役することになっている。その間にも調査兵団は先へ進む。私がいなくなったところで代わりは次の代がいる。いつまでも2人をここへ留めておくことはできない。

見舞いに一緒に来たのだから、一緒に帰ってもらわないと天才的な迷子のエースは兵舎に帰ることができない。同期の仲間で「お前、壁の外で迷子になっても救援いかねえ」と笑ったことが懐かしい。

「言ってない、言ってない。言う必要ないだろ?それに##name1##は高熱で意識不明だったんだから」

「おい、何の……」

「上官を殴って、不名誉除隊になった」



あ  ほ か !!



あまりの私の怒号にリヴァイは条件反射で怪我人の私に拳骨を落とすわ、看護師が入ってくるわ、エースは無駄に爽やかに笑っているわ、ハイジも来て馬鹿笑い始めるわで私の部屋はカオスな状態に陥ってしまった。
足以上に殴られて痛む頭を押さえながら、エースに食って掛かる。でも、エースはまるで他人事のように私に経緯を説明……するような男ではなく、リヴァイが呆れながら説明していた。








「俺、辞めます」

「ふざけるな、エース」

当時の兵士長は辞めるという人間は去れという人だった。大抵、やめると言った人間の心は折れて、目は死んでいることが多いのだ。調査団が壁の外から帰って来る度に数を減らし、更に生きて帰ってきた人間も調査団から数を減らす。
だけど、辞めると言い出したエースの目は死んでいなかった。今すぐにでも巨人を殺しに行けるような男を調査団から手放すのは人類の損失だと思っている。代わりはなかなかいないだろう。
兵舎で、散っていた仲間の為に黙祷を捧げた仲間の前で誰よりも早くエースは兵士長の前で言った。

「じゃあ、仕方がないですね」

何が仕方がない、という前にエースの腕が動いた。
兵士長がそれに反応するよりも早く動いたのは、エースとリヴァイ。兵士長の顔にエースの拳が行く前にリヴァイが止める。まるでわかっていたかのような行動だ。

「やめろ、エース」

「はははっ、嫌だね。殴らなきゃ除隊にならないだろ」

にこにこ、と笑うエースにぞっとしたのは身近で見たリヴァイや兵士長だけではない。巨人を前にして狂うのとは違う狂気が見えた。

執着。


ぱちんっ



ぎりぎりのところで止めた拳から、額に向けて指の長さぎりぎりのでこぴん。
小さな音が響くには十分すぎた緊張的静寂。

「はい、上官に暴力を振ったぜ」

これで、めでたく除隊にしてくれるでしょ?





「あ……ふぎゅうぅ!」

「うるさい、黙れ」

話を聞いたアキラの喉仏に軽く一撃を与えて騒音を阻止したリヴァイ。ハンジが笑い出す目にエースが頭を沈める。

調査兵団での、この面子での最後の光景だった。









……と、思いたかったのに。

「迷子はとことん迷子だったよ、犬畜生!」

親父がやっていた酒場で仕事を始めた。除隊されたエースは?うん、ユリウスの所で働き口を見つけたらしいが、私の酒場で用心棒的な役割をしている。
仕事があるから迷子を送る暇がなく、待たせている間にエースはいつの間には酒場の用心棒として周囲が認識を始めてしまった。
いやね、片足がなくても私だって酔っ払い兵士たちをおとなしくさせることはできるよ?うん、別に給料はいらないって言うし、払わなかったよ、はじめは。でも、客から可哀そう、言われて給料を出し始めたんだ。そしたら、多いって言って明日も働くというし……そのあれだ、ずるずると居座られてしまった。家に帰したら返したで、迷って内地まで言って昔の仲間が送ってきて私に「ちゃんと面倒見ろよ」と小言まで残すし。

「で?」

リヴァイが空のグラスをカウンターにコツコツあてて私が持っているボトルの酒を要求している。
目が「聞いてやってんだから、早く入れろ」と言っている。

「エースは住み込み用心棒になりました、人類最強様」

「それはお前が悪い」

「ちょーっと、人類最強さん。店員に絡まないで下さいよ」

エースが私とリヴァイの間に、お盆を隔てた。にこにこ、と笑うエース。こいつが人類最強とか言っていると胡散臭い。

「うぜぇ」

「うさんくさい」

「えー!ひどいな、二人とも。なんでそんなこというか意味わかんないぜ」






車椅子の私は床を高くしたカウンターの内側でエースとリヴァイのやり取りを見る。ハンジは今は巨人の研究にご執心だけど、本当にたまに酒場に来る。
壁の内側の兵士の面子はそうそう変わらないが、調査兵団の面子は変わってしまう。でも、私とエースは変わらない日常を送っていた。
これが壁の内側の平和というものなのか。




人類が、調査兵団以外が巨人の恐怖を思い出した日。
あまりの兵士の動きの生ぬるさに、記念として拝借していたサーベルと立体起動装置の装備を持ち出して酒場を飛び出したところでエースが私を担ぎ上げた。

「なにを!?」

「酒場は諦めて逃げるぜ」

「は?ふざけんじゃねえ」

「ふざけてない、君を守らなきゃ」

「エー、ス?」

私を抱えて走るエースの体のどこを探しても恐怖は見えない。周りの人間は怯えて逃げ惑うばかりなのに、恐怖はない。


神様、ごめんなさい。
本来ならばこの人は、巨人の前にして、駆逐しているはずなのに、私のためにここにいます。
立体起動装置を展開して飛んでいる人なのに、私が地に落としました。
ごめんなさい、ごめんなさい。
神様、私の足を返してください。そしたら、この人を私は戦地まで戻します。




……なんて、な神様、ざまあみやがれ。
足を取ったんだから、幸せになってやろうじゃん!






リヴァイは手紙を食堂で読んでいた。

「結局バカップルか」

「ん?兵士長、誰か知り合いが結婚するんですか?」



(飛ばない、飛べない、飛ばさない)



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