銃弾レディ

□第14章 宣誓フィナーレ
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悪夢だ。

クリアは部屋の隅に縮こまって、それを見ている。

ぐらぐら、と風もないのに揺れているのは奇妙なこと。

「いや、いや、いや・・・・・・」

ベッドから仮眠を取り終わって起きたときに目の前にあったのは夢の続き。悪夢の原点。クリアは逃げるようにして、部屋の隅に逃げた。
部屋の中心には首を吊った自分の姿。
幻影であるは理解しているのに、突きつけられた現実がひどく恐ろしい。

(「クリア、大丈夫だ。俺が守るから」兄が言って、私はそれを信じた)
(それを信じたけれど、暗い闇は私の傍に・・・・・・)




・・・・・・初めて目標を、エースを殺し損ねた日。クリアはジャバウォックに捨てられていた。

「どうして、どうして?」

海に浮かぶ家は波の音だけ聞こえて、後は静かだった。グレイはここにはいなかった。ナイトメアに会い、対策を練ろうとグレイはクローバーの塔にクリアを連れて戻ろうとしたが移動できるほどクリアの精神状態は安定していなかった。

直ぐに戻る。そう、グレイはクリアを宥めて、

大丈夫。彼女もうなづいた。

クリアは自分自身でも落ち着かないといけないとわかっていたから、バスルームで顔を洗った。いつもの慣れた洗面台。
冷水で顔を洗うと少しだけほっと出来たような気がして、顔をあげた。

壁に掛かった鏡にいつものように自分を映したけれど、そこにはジャバウォックのクリアなどいなかった。
役が消えて、ぼんやりとした顔の女。
ジャバウォックは、先代たちの時とは違って、クリアに愛情衝動も殺害衝動も与えずに消えてしまった。グレイもそこが不審だった。

「・・・・・・」

鏡に向かって無理矢理笑おうとしたけど、無理だった。見慣れない役なしの顔は自分ですら自分かどうかもわからなかった。

――――どうして、ジャバウォックは私を捨ててしまったのだろう。

・・・・・・クリアはこのとき、気づけなかった。瞼を閉じた裏に浮かぶ彼の姿が今よりも若い姿だということに。
胸の底から湧いてくる恋心がとても懐かしいものだということに。

騎士に恋をした少女を化け物は呪った。育ての親は良かれとしたけれど、ジャバウォックも許したけれど、それでも、彼女は再び恋をしてしまっていた。

それは殺意を伴う恋ではなく、本当に純粋な恋心だった。
もしも、クリアがそれを去ったジャバウォックの呪いではないことに気づいたならば何か変わっていただろうか。それは否。
何故ならば、どうして今更になって麻薬のようなジャバウォックに捨てられて生きていけるのだろう。

床に崩れるように座り込んだ。

「クリア?」

「・・・・・・」

そこに現れたのはジャバウォックの仲間だった。少し前からドアの外にいたようだったが、クリアが出てくる気配はなく勝手に入ってきたらしい。

「どうした?」

「・・・・・・いいえ、別に」

俯いたまま顔をあげて答えなかったのが幸いだった。顔を上げていれば顔なしになったクリアを見て何かを悟るだろう。

「・・・・・・そんな状態で悪いんだが」

まだ、ジャバウォックであると思っているので訪問者は大事なことを話してくれる。
それが、どんなに悲しいものでも。

「ジギルが殺された」

訃報の知らせ。

「っ・・・・・・ひとりに、してください」

絞り出した声は、それでも威力を持っていて、訃報を知らせた人は黙ってその場を後にした。

本当に、心のより所がなくなって独りになったクリアはゆっくりと立ち上がり、重く悲しい恋だけを引きずって歩く。




・・・・・・窒息してしまいそうな恋と呼吸の仕方を忘れる絶望。




















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