銃弾レディ
□第14章 宣誓フィナーレ
2ページ/6ページ
下から風が吹き上げて、木々を揺らす。そして、道に広がる水面は波を作る。
道行く騎士、エースは小さなブルーの箱を、真上に投げては取り、真上に投げては取りを繰り返して、手遊びをしている。
行き先は決めているものの、エースは気の赴くままに脚を進めている。時間は無限。だから、急ぐ旅ではないとのんびりと脚を進めている。
制限時間はない、そう、ない。だからこそエースは迷っているのだった。道ではなく、これからしようとしていることを今、すべきかどうか。
「にゃーにしてんの、騎士さん」
わざとらしくしゃべりかけていたボリスは丁度、エースが通りかかる木の上にいた。
いつの間にか思考に沈んでいたエースは耳を利かせて、森の道の先に街の喧騒を聞いた。
「ははは、珍しいね。いつもは俺に気づかないのにさ」
無意識には子をコートのポケットにしまう。ボリスは勿論それを捉えて猫目を細めたが、何も言うことはない。
「もうすぐ、会合が終わるんだよね」
「あ、そういえばそうだったっけ?」
忘れていた、と言ってもボリスは額面通りには受け取らない。くるり、と木に膝をかけて逆さまに枝にぶら下がる。
「次のゲームはどこの国だと思う?」
「さあ、駒に過ぎない騎士にはわからないことだ。猫君はどこの国が良い?また、オーナーさんがいるところ?」
「誰があのおっさんがいる所にわざわざ・・・・・・。それより、騎士さん」
話を振っておきながら、話題を変えた。
「騎士さんと店員さんのゲームは終わらせるの?それともまた、延長?」
瞬時に剣が空を切った音。剣先はボリスの首の位置に向かって振るわれたが、ボリスは切断よりも先に身体を木の上に戻した。にいっと笑ってエースを振り返ると彼も爽やかに笑い返したので笑みを消す。
「また、迷子?」
「・・・・・・まだ、迷子さ」
エースには珍しく、肩を竦めて表情を緩める。
「エース!」
「やあ、アリス。息を切らしてどうしたんだ?」
街の方角からアリスが駆け寄ってくる。ボリスもアリスの姿が視界に入ると、木から降りてアリスとエースの間に立った。
「ビバルディに呼び出されていたの忘れてたわけじゃないわよね?ビバルディ、すごく機嫌が悪くてメイドさんとかが危ないわ」
「あははは、陛下の機嫌が悪いのはいつものことじゃないか!」
「笑ってないで、早く!」
ボリスの横を抜けてアリスは当たり前のように、エースの手を引いて歩き出す。でなければアリスが少し目を離したり人混みが激しくなってくると、いつの間にか消えているからだった。
恋に落ちるタイミングなどなくなってしまった友人関係。
いつまで経ってもこの世界の”常識”に馴染めない余所者の少女が役持ちの自分の手を臆せず手に取る姿は良く言えば無垢、悪ければ無知に見えていた。
怖いもの知らずだなぁ、と呟くようなボリスの目線にエースは同意するように肩を竦めた。
「あ、そうそう、アリス」
「何よ?」
振り返らずに、街の中の人の流れに逆らわずに歩き続ける。
「告白ってどういう状況でやればいいと思う?」
「それはやっぱり……はあっ!?」
「……」
迷っていたのは、どのこと?
と、驚いて脚を止めるアリスに若干の同情の眼差しを向けるボリスは苦笑い。アドバイスを求める相手としては一番まともかもしれないけれど、聞くタイミングの時点で告白云々の問題が先が思いやられる。
「俺、クリアに誓いたい」
何でもないようなことを、いつもの日常会話をするような口振りでエースはまだ驚愕の色を浮かべたままのアリスを見下ろす。
「ルールとか、先代とかに縛られてばかりだろ?だったら、俺はクリアにクリアだけのものをあげたい」
照れるわけでもなく、ただ真っ直ぐエースはことを伝える。これを言われるのはクリアだけのはずだろうが、生憎と真っ直ぐなエースはとっておきの言葉を迷い無く使う。
「・・・・・・私に聞かないでよ。そんなことしたことないんだから」
アリスも即答ではなく、たっぷりと時間をかけてから答えた。
「そっか。うーん、困ったなあ」
特にがっかりした風もなく、エースは考えるそぶりだけをする。
「兎に角、今は陛下の所に行こうか。っさ、猫君。一緒に行こうか!」
「い、いや。俺は女王様のところへは遠慮・・・・・・にぎゃっ、騎士さん!?尻尾は駄目だって!いでででで!」