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お礼になるか分からないお礼文(:SIDE 荒垣)↓


A grape candy and fireworks

長鳴神社に住み着いていた白い犬が最近いなくなった。人で賑わう今日なら戻っているかもしれない、と思った荒垣は夏祭りへと来ていた。
浴衣や甚平を着た人ごみを歩いていた時、とある少女の後姿が目に入った。しかも何故か裸足だ。
「おい、黒崎!」
名前を呼ばれた少女は振り向く。いつものパーカー姿とは違い、黒地に朝顔が描かれた浴衣を纏い、髪は後ろでお団子結びにされている。彼女のトレードマークであるヘッドホンもさすがに今日はつけていないようだ。
「どうしたんですか?」
詩和依が不思議そうに訊ねてきた。
「どうした、は俺の台詞だ。なんで裸足でいんだよ?」
荒垣は詩和依の足元に視線を向けて疑問を口にする。
「あー、下駄の鼻緒が切れちゃって。」
何でもないように答える彼女に思わずため息を吐いてしまった。
「ったく、危ねえだろうが。こっちに来い。」
詩和依の腕を引き、道のわきにあるベンチに座らせる。
「それ、貸せ。」
「え?」
虚を突かれたように聞き返される。
「その下駄を貸せつってんだよ。」
「あ、はい。」
照れくささに思わず語気が荒くなる。目の前の少女は相変わらず怖がることなく下駄を差し出してきた。
それを受け取り、自分のハンカチを使って応急処置的にだが修理する。
「きつくねえか?」
「大丈夫です。」
下駄の履き心地を確かめた詩和依がうなずく。
「家帰るくらいならもつだろう。」
言外に完全じゃない事を伝える。
「ありがとうございます。あ…っとよかったら、これ。」
お礼と共に差し出されたのは缶ジュース。それを受け取り、詩和依の横に腰を下ろす。
「1人で来たのか?」
自分と同じで、あまり行事に興味がなさそうな詩和依がこの場にいることが不思議だった。彼女の妹なら話は別だが。
「いえ、奏と真田先輩と。はぐれただけです。」
「はぐれた?お前が?」
人一倍妹の事を気にかけており、尚且つしっかりしている詩和依らしくない答えだった。
「ちょっと、余所見していた隙に。」
いつもの口調で返事が返ってくる。
「…りんご飴とぶどう飴どっちが夏祭りって感じがします?」
不意に詩和依が質問してきた。何の脈絡のない質問だ。
「は?そりゃ、りんご飴じゃねえか?」
一応答えはしたが、意図が見えない。
「ですよね。でも、私はぶどう飴が好きなんですよ。」
「は?」
「小さな頃、奏と喧嘩したんですよ、りんご飴を美味しいか、ぶどう飴を美味しいかで。」
屋台に目を向けたまま、詩和依は話す。
「全く同じ会話を交わしている姉妹が居たんです。それを見ていたらはぐれたんです。」
寂しげな表情が微かにだが浮かぶ。
「後ろばかり振り向いて…とは思うですけど。」
滅多に聞くことのないトーンの詩和依のセリフ。
「…いいんじゃねえか、別に。」
「え?」
今度は詩和依が聞き返してきた。
「過去を見ねえ人間なんて居ねえよ。」
きっと詩和依より自分の方が過去に囚われている。あの日のことを忘れて歩き出すことなど荒垣にはできない。
「…そうかもしれません。」
自身がどのような表情をしていたのかは分からないが、いつもと同じではないはず。他人の変化に敏感な詩和依が気付かなかったはずはないだろう。しかし、何も訊ねてくることはなかった。だから、こいつの隣は居心地がいいのかもしれない。
―バン
そんなことを考えているといきなり大きな音が響いた。
「あ…」
詩和依が小さく声を漏らす。花火が夜空に咲き誇った。
「綺麗ですね…」
「…ああ。」
打ちあがる花火をほとんど会話もせず、2人ならんで空を見上げていた。

Fireworks were beautiful beyond anticipation.
(花火は予想以上に美しかった。)






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