恋に落ちた海賊王

□平和を愛したお姫様と平和を願った海賊王
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晩餐の途中、お父様がおもむろに口を開いた。


「名前、お前ももう20を過ぎた」

「どうしたのですか、お父様」

「そろそろお前の結婚の時期だと思ってな」

「お父様の言う通りよ、名前。そろそろ孫の顔も見たいもの」

「お父様もお母様も気がお早いですわ」



平和を愛したお姫様と平和を願った海賊王



晩餐を終え、自室に戻る前に私は庭園へ向かった。
結婚ーーー今まで全く考えていなかった訳ではないけれど、決められたモノではなく、愛する人に添い遂げたいと思うのは私の我儘かしら…

庭園に咲き誇る色とりどりの花々達ーーー
着飾されられた私には無い美しさ。

きっと結婚も、お父様達が決めた国に嫁いで、またその国でも私はお飾りで…鳥籠に囚われた一生を送る。


「こんばんは、お姫様」


ーーーソレは、音もなく突如やって来た。
背後から抱き竦められ、口を塞がれる。

身の危険を感じた私は、その大きな掌に噛み付き相手が怯んだ隙に体を離し振り返った。


「無礼者!この城に何用…ッ」


刹那、彼の瞳に恋をしてしまったーーー・・・

きっと、その身なりからして彼は海賊だと思った。
思ったけれど、もう遅かった。


「無礼を…お許し下さい。貴女の名は?」
 
「…名前。貴方のお名前は?」

「リュウガ」


リュウガ…いくら世間知らずな私でも、その名は知っていた。
この世の海を統べる海賊王リュウガ。

もっと年老いた海賊だと思っていた。
目の前に現れた海賊王リュウガを名乗る男は、私と然程変わらない歳だろう…


「今宵、このモルドーに眠る宝を頂戴する予定でしたが…」


彼は私の前に跪き、私の手を取ると手の甲に口付けをした。
ドキドキと私の鼓動は高鳴り、頬に熱を帯びるのを感じた。


「見付けてしまいました。俺の世界に一つの宝を…名前」


運命は残酷な歯車を廻し始めたーーー


「いけません…」

「海賊王に盗めぬモノなど、ありません。名前…貴女の心も」


視線が絡んだ瞬間に人の心を盗んだくせに…
自分の立場が恨めしい。
彼は海賊王、私はモルドー帝国の姫ーーー

神様は、私の事がお嫌いなのですか?

彼の為なら、全て捨ててしまえると思った。


「名前様、どちらにいらっしゃるのですか?」

「いけない、ディアスだわ、お逃げになって」

「名前…このまま連れ去りたい」
 
「リュウガ様…さぁ早く」


彼はサッと掠める様に唇を重ねると、また音もなく闇へと消えて行った。


「名前様、此方に居らしたのですか」

「ディアス、何か用かしら?」

「いえ、お部屋にいらっしゃらなかったものですから。夜風にあまり当たって居てはお体に障りますよ」

「えぇ、部屋に戻るわ」


ディアスに促され城の自室へと戻る。
私の頭の中は彼の事でいっぱいでーーー
彼を想うだけで、胸が締め付けられる。
こんな気持ち、生まれて初めて…


「おやすみなさいディアス、今日もありがとう」


部屋のテラスから夜空を眺める。
キラキラと輝く小さな宝石達が無数に散らばっている。

晩餐でのお父様の《結婚》と言う言葉を思い出しす。
彼と出来たなら、何れ程ーーー

カサッと小さな物音に気付き、私は空から庭へと視線を戻した。
広がるのは闇ばかり…ではなかった。
闇に紛れ柱を伝い登る彼の姿。


「リュウガ様…どうして?」

「我が宝に会いに」


彼はサッとテラスの手摺を飛び越え再び私の目の前に現れた。


「見張りの兵も居るのに…何をしに居らしたのですか」

「無論、キスをしに」


奇跡の様な恋でした。
これが、永遠の恋である様に願いました。
最初で最後の恋でした。
恋を知り、私は欲張りになりました。

愛の海に溺れるーーー

貴方との未来が欲しい。







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