恋に落ちた海賊王
□アネモネ
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「名前ちゃん、居る?」
ドアがノックされ、声からソウシさんだと分かった。
私は煙草を設置されていた灰皿へ入れると部屋に戻りドアを開けた。
「はい、何でしょう」
ソウシさんは一瞬、不思議そうな顔をして部屋の奥を見遣っていた。
「ナギが帰って来たのかい?」
「いいえ、まだです…」
「ダメだよ名前ちゃん煙草なんて吸っちゃ。百害あって一利なしだからね」
「ごめんなさい…」
部屋を開けたまま話して居るのも、あまりいい気がしなかったので私はソウシさんを部屋に招き入れお互い向き合う様に椅子に座った。
「どうして煙草なんて吸おうとしたんだい?」
「…ナギが居ない事が寂しくて」
「そうか…」
「でも、煙草って不味いですね…それに余計ナギの事を考えてしまって、ダメみたいです」
「そう…」
ソウシさんがテーブルの上で私の手に手を重ねて寂し気に笑った。
「ナギが帰って来るまで傍に居るよ」
「そんな…明日からまた航海なのに、ソウシさんも休んで下さい」
私の言葉にソウシさんは首を横に振り、私の手の甲を優しく何度も撫でてくれた。
ナギとは違う、優しい掌。
男の人とは思えないくらい綺麗な手をしている。
「私はね、名前ちゃんが大切だから、君が悲しい時は傍に居たいんだ」
「ソウシさん…」
ソウシさんは腰を浮かせ私の額にキスをすると、また寂し気に微笑んだ。
「大切なんだ…だから、ナギに返したくない」
「それっ、て」
「ごめん…名前ちゃんを困らせたい訳じゃないんだ。だけど、名前ちゃんが泣いて居るのは私も辛い」
ソウシさんが私の髪を梳かす様に何度も撫でて、私はただ何も言えずに俯くしか出来なかった。
「ああ、名前ちゃんは夕食を摂ってなかったね。食堂でスープでも貰って来ようか?」
「いえ…」
「じゃあ、もうお休み。眠れる迄そばに居るよ」
ソウシさんが立ち上がり、私を椅子からスっと抱き上げる。あまりに自然にするものだから、一瞬分からなかったけれど、これはいわゆるお姫様抱っこと言うやつで…
「ソウシさん!自分で歩けますよっ」
「あいつが居ない時じゃないと、名前ちゃんに触れられないからね…今だけ。ダメ?」
ソウシさんにそう言われて、断れる女が世の中に居るんだろうか…
私は首を横に振り、大人しくソウシさんに抱かれてベッドに移動した。
「でも名前ちゃんはナギがいいんだよね…」
ふわりとベッドに下ろされて、ソウシさんがベッドに腰掛ける。
私はどうしたいんだろう…
ナギと別れてしまったら、きっと気まずくてシリウスには居られない。
「私と、このまま船を降りるかい?」
「え?」
「なんて、ね…」
まるで、ソウシさんは私の気持ちを読み取るかのように、じっと見詰めて来る…
嘘とは思えないソウシさんの瞳に、罪悪感を感じた。
それでも私はナギを信じたいーーー
「もし、ナギに振られたら骨は拾って下さいね」
「勿論。だからきちんとナギと話してごらん」
ソウシさんが優しく微笑む。
怖いけれど、このまま何もしないでナギを失う位なら、もう一度泣いたって構わない。
きっと大丈夫…
ソウシさんの笑みが、そう言ってくれている気がした。
ソウシEnd.....