薄桜鬼

□大切ナ人
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原田さんと口喧嘩をした。
理由は私が悪いんだけど…原田さん率いる十番隊と巡察中に不逞浪士に絡まれている子供達の前に私が飛び出してしまったから。

原田さんが不逞浪士を一撃し十番組の隊士達が不逞浪士を捕獲した後、『お前に何かあったら、どうするんだ!』と私を嗜める原田さんに、つい口答えをしてしまった。



大切ナ人



とても気分が重たい。
理由は解っている。巡察を終えて、まだ日が沈む前から原田さんが永倉さんと平助君を引き連れて呑みに行ってしまったから。

まだ、昼間の巡察の時の事を謝っていない…

原田さんが島原に行くのは良くある事なのに、何故か今は胸がズキリと痛んだ。
何故、胸が痛いのか…それは分からないけれど。

昼間、原田さんが不逞浪士と押し問答をした際に浅葱色の誠の羽織に出来た穴を縫い繕って私は原田さんが帰って来るのを待って居た。


ーーー
ーー



「ただいまー!」

「シンパっつぁん、デカイ声出すなよなー。皆が起きるから!」


いつの間にか原田さんの羽織を抱いたまま眠っていたみたい。
永倉さんと平助君の声で目が覚めたけど…肝心の原田さんの声が聞こえない。
急いで屯所の玄関へ行くと酔いつぶれた原田さんが永倉さんに肩を組まれ立って居るのがやっとの状態だった。


「わっりぃ千鶴、起こしちまった?」

「うんん、大丈夫…それより原田さんが」

「ああ、なんだか左之の野郎、今夜は酒に呑まれちまってな。千鶴ちゃん悪いが左之を部屋に運ぶから後で水を持って来てくれないか」

「はい!わかりました」


勝手場に行き湯呑に飲み水を注ぎ、原田さんの部屋へと急いだ。


「失礼します。永倉さん?」


襖を開けると既に永倉さんと平助君の姿は無くて…原田さんが畳に寝そべって居た。
お酒によって薄桜色に色づいた肌が月明かりに照らされて居る。

お盆を置き、押入を開いて布団を敷く。
寝かせておいてあげたいけど…流石に私には原田さんを持ち上げて布団に寝かす事は出来ないかな。忍びないけれど私は原田さんの肩を揺らした。


「原田さん、風邪を引いてしまいますよ?」

「ン…」

「お布団に…」

「千鶴?」


ぼんやりと私を見上げる原田さんの眉間に皺が寄る。まだ昼間の事を怒ってるよね…


「あの、昼間はごめんなさい」

 
頭を下げるけれど原田さんからの返事は無い。恐る恐る顔を上げると原田さんはまだ難しい顔のまま。


「千鶴」

「はい、なんでしょう」

「恋ひ死ねとするわざならし むばたまの夜はすがらに夢に見えつつ…か」


原田さんの表情がフッと緩だと思うと、次の瞬間に私は抱き締められた。
原田さんの体温、香り、聞こえてくる息遣いと鼓動に、目の前がクラりとする。

ーーー嗚呼、私は原田さんが大切ナ人なんだ…
父様や新選組隊士の皆さんとは違う意味で。

だから仲直りが出来無かったのも、原田さんが島原へ行ってしまったのも、あんなに苦しかったんだ。


「夢の中なら、こうしてお前を抱き締めも出来るのにな」

「原田さん…」


夢じゃありませんと、言おうとしたけれど、私を抱き締めたまま瞼を閉じて寝息をたて始める原田さんの表情は、どこか晴れていて…

私は原田さんの長い前髪をそっとかき上げて原田さんの額に口付けを一つ落とした。

顔が熱くて、鼓動が五月蝿くて、とても愛しさが込み上げてーーー今夜は眠れそうもない。






End.
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