恋に落ちた海賊王

□アネモネ
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三日前、些細な事でナギと喧嘩した。
お互い避け合って…謝るタイミングも無くしてしまって。

同じ部屋で、同じベッドで寝てるのに、ナギが遠いーーー



アネモネ



久しぶりの港町、私はシンさんと一緒に買い出しの為に市場に来ていた。


「グズグズするな、次の店に行くぞ」

「はいっ、すぐ行きます!」


シンさんと一緒に備品の買い出しをしているのだけど、とにかく荷物が重い…
部品は一つ一つが重いし、シンさんは持ってくれないし。


「後悔しているか?」

「何をですか?」

「俺と組まされた事」


シンさんが、紙袋を一つ私の手から取り、持ってくれた。
確かにシンさんは厳しいし、ドSだし、歩くの速いし、ドSだし…だけど、こうして荷物も持ってくれた。
いつもは厨房の手伝いをしているし、船長が気を利かせてくれてナギと組ませてくれている。
今日は気を利かせてくれてシンさんと組ませてくれたんだけど…

道行く恋人達が目に毒だ…
今頃、ナギは何をしているんだろう。


「後悔なんて…」

「そうだな、光栄だろう。
…早くナギと仲直りしちまえ。お前の子守も骨が折れる」

「ははは…すみません」


 
私は乾いた笑いを浮かべるのが精一杯で、シンさんの歩みを一生懸命追いながら船が停めてある港へと急いだ。

ナギに謝ろう…私の頭の中はナギの事でいっぱいだった。

荷物を船に積み、今夜は街の宿屋で休む事になった。
勿論、私はナギと同室な訳で…

謝るタイミングを見計らってはいるものの、とっても気まずい…


「あの、ナギ…」

「少し出てくる」


やっとの思いで話し掛けたけれど、ナギは私の言葉を遮る様に部屋を出て行ってしまった…
仲直りがしたいのにーーー

鼻の奥がツンとする。泣きたいけれど、泣く事が出来ない。
きっと夕食までには帰ってくる筈…

私はポーチからソーイングセットを取り出すと、市場で買った紙袋を開いた。
紙袋の中から黒い布を取り、私はナギのバンダナを縫い始める。
いつも使っているバンダナが少し解れてたから…ナギが帰って来たら、新しいバンダナを渡して謝ろう。


「え、ソウシさん今なんて…」


バンダナを作り終えたけれどナギは帰って来なかった。
夕食の時間になり、宿の人に呼ばれ食堂に行ったけれどナギも船長も居なかった。
嫌な予感がするーーー


「夕食は外で済ますって言って居たよ」

「そう、ですか…」


 
私は自分の席に座り、水を一口飲んだ。
ナギ、いつ帰って来るのかな…


「なんだよ、名前シケた面してんな。ナギ兄ぃが船長と娼館に行ったからイジけてんのか?」

「ハヤテっ!」


ソウシさんが慌ててハヤテさんを制すると、ハヤテさんは″しまった″と言わんばかりの表情で口を噤んだ。


「娼館…?ナギが?」


一瞬で目の前が暗くなった気がした。
嘘。そんなの嘘だよ…なんでソウシさんもハヤテさんも怖い顔して黙ってるの?否定してよ。
もともとナギは娼館が好きじゃないって言ってたし、船長と付き合いで行った事はあるらしいけど…なんで…私の事、嫌いになったの?


「なんだ、葬式の最中かココは」

「シンさん…いえ、何でもありません」

「何が何でも無いだ。今にも泣きそうな面しやがって」


食堂にやって来たシンさんが私の頭をポンと叩いて溜息を吐いた。


「昼間、言っただろう」

「はい…」


部屋では出なかった涙が込上げて来るーーー
ソウシさんも困った様に私の頭を撫でて、そっと抱き締めた。
驚き過ぎて涙が引っ込んだ。
ナギじゃない男の人の香りにふわりと包まれる…






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