恋に落ちた海賊王

□ユキノシタ
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愛する事を怖がらないで―――

私は貴方を置いて行かない。

貴方を独りぼっちになんかしない。



ユキノシタ



「ソウシさん、お手伝いする事ありますか?」


トワくんと甲板掃除を終えた私は医務室のドアをノックした。
中からソウシさんがドアを開け私を迎え入れてくれる。


「名前ちゃん、じゃあこの植木鉢に水をあげてくれる?」

「はーい!」


私は医務室に入り小さな如雨露で腎円形の植物に水をあげた。


「面白い形の葉っぱですね」

「名前も“ユキノシタ”って面白い名前なんだ」


ソウシさんは試験管に色々な粉末を調合しながら答えた。
私は風を立てて粉末を飛ばさない様にベッドのシーツのシワを伸ばし掃除を始める。


「ユキノシタ?ユキってあの雪ですか?」

「そう、とても寒さに強い植物でヤマトが原産なんだよ」

「そうだったんですか!?知りませんでした」


ヤマトが原産だと言うその植物に親近感を覚える。ソウシさんが読み明かし散らばった書物を整理して本棚に並べた。

 
「ユキノシタには消炎作用、解熱作用、解毒作用があって古くから民間薬として重宝されているんだよ」


ソウシさんは調合した薬を天秤で量りながら紙に包み綺麗に折り畳む。その手付きは鮮やかで、あっと言う間に作られた薬は瓶の中へ仕舞われた。


「貼り薬としてだけじゃなく葉はお浸しや天ぷらとして食用にもなるんだ」

「美味しいんですかね……ソウシさん食べたことあります?」

「いや、ないんだ。今度二人で食べてみようか」


冗談とも本気とも取れないソウシさんの笑みに私はユキノシタの葉を撫でた。親近感のあるユキノシタを食べてしまうのは、なんだか心苦しい気もする。


「名前ちゃん、ユキノシタの花言葉は恋心・切実な愛情…名前も見た目も効能も、花言葉も、なんだかアンバランスで面白いでしょ」

「…なんだかソウシさんみたい…」

「え、私?」

「みんなを癒して、尽くして、少し可愛くて…時々思うんです、ソウシさんの本心は何を想ってるんだろうって…」


言い掛けたところでハッと我に戻りソウシさんに頭を下げた。


「ごめんなさい!生意気な事を言って…」
 
「いや、気にしないで。名前ちゃんには敵わないな」

「ソウシさん…」

「名前ちゃん、俺はね…」


ソウシさんの瞳が憂いを帯びて目が離せない―――


「愛する事が怖い…名前が大切なのに、愛しすぎて壊してしまうんじゃないかって」

「私は簡単には壊れません、ソウシさんに壊されるなら本望です」

「名前」


ソウシさんがグッ、と私を抱き寄せ、意外と逞しい腕に抱き締められる―――
ソウシさんの胸に体を預け、肌で鼓動を感じた。


「お〜い、名前ーっ!」


ハヤテさんの声に苦笑が漏れた。このままハヤテさんの声がしなかったら私はきっと……


「ソウシさん、ハヤテさんが探してるみたいなんで行きますね」


体を離そうとしたところでグイッと後頭部をソウシさんの掌に引き寄せバランスを崩してしまい、腕の中に逆戻りしてしまった。


「ソウシさ、ンっ!」

ソウシさんの唇と私の唇が幾度となく重なり合う―――
腰も抱き寄せられて密着する身体…ソウシさんの本能が垣間見えた様で、また知らなかったソウシさんの一面に私の心臓は高鳴りっぱなしだった。

暫くして唇を解放される。


「こんな俺は嫌い…?」

 
「嫌いなはずがありません!ソウシさんの全部が好きです」

「ありがとう…ハヤテに呼ばれていたね、行っておいで」

「はい!」


私は医務室のドアを開け甲板へと走った。


ソウシさんが私に教えた恋心……

切実な想いが真心に成るように、今度は二人で愛を知りたい。

少しずつ、少しずつ、春を待つ雪が溶ける様に。





end...
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